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図書館スタッフおすすめ本

 

2021/04/01

鈴鹿の山の山賊が出会った美しい女

| by 図書館
『桜の森の満開の下』
『坂口安吾エンタメコレクション伝奇篇』 坂口 安吾/著 春陽堂書店 (市立・成人 913.6//サカ/19)より
       
 今回は坂口安吾の作品から特におすすめしたい一本を選びました。

 本作を読み始めますと、中世の説話を思わせる設定のもとに、残酷な童話のような幻想世界が広がり出します。甘美にして異様な雰囲気が濃厚に立ちこめるのは、何と言っても満開の桜のイメージのおかげです。
 何も恐れるものがない山賊の心に畏怖の念を呼び覚ます花の『魔性』によって、物語は鮮やかに染め上げられていきます。男の魂を奪った女は、ある恐ろしい「遊び」に興じます。その「遊び」はただ残酷な光景のみ想像してしまいそうなものですが、清潔感と静けさを具えた文体で描かれることにより、決して悪趣味になり過ぎることなく、妖艶な舞台芸術を観るような趣きで作品世界に入り込んでいくことができます。ひたすら女に尽くしながら心身を擦り減らしていく山賊を見ていますと、結局は死を介してでなければ真に触れ合うことのない男と女の孤独が迫ってくるようです。

 私がとりわけ美しいと思うのがラストです。
 夢幻の世界の深い余韻に浸らずはいられないことでしょう。
 人も通らぬ山奥の桜の森の満開の下には鬼が似合いますね。

06:00