大切なものは目に見えない...心の豊かさ・心の贅沢を探しもとめて♪

『美 「見えないものをみる」ということ』 福原義春/著 PHP研究所 (市立・成人914.6/フク/14)

 経済界随一の読書家で知られる資生堂の名誉会長が記した本書は、本当に美しいものが美しいと評価されているのだろうかといった素朴な疑問から始まる。リッチとは…心の豊かさ、心の贅沢…究極のエレガンスでもある。文化に造詣が深い著者が、影響を受けてきた多岐多様の本も引用しながら、音楽、美術、自然などのなかに潜むリッチなものを紹介し、効率性や経済性を重視する時代に警鐘を鳴らす。視覚だけでなく、五感のすべてで対象を感じるのが日本人なのである。本来日本人が持っていた、見えないものをみる感性を取り戻すにはどうしたらいいか…本書は人生のより深い味わい方を説いた次世代へのメッセージである。本書のみならず、本書で紹介されている文献についてもぜひとも読んでいただきたい。


 本書の記述の中で私が最も興味を示した箇所は、傳田光洋氏の研究だ。資生堂の皮膚科学の研究者である傳田氏は、鼓膜は聴覚で感じられる音しか聞いていないけれど、全身の肌はどう受けとめているのかという研究を行った。傳田氏の著作には、『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮社)、『賢い皮膚』(筑摩書房)、『第三の脳』(朝日出版社)、『皮膚は考える』(岩波書店)などがある。最先端の研究成果を基礎に生命とこころの本質に迫るこれらの本からは、触覚や皮膚感覚についての新たな発見があることだろう。


 本書では、詩人の高橋順子氏が書いた『雨の名前』・『風の名前』・『花の名前』(小学館)が紹介されている。育花雨、甘雨、青時雨、御雷様雨、秋雨、御精霊雨、雨雪、風花…。玉風、毘嵐婆、雁渡、少女風、花信風、星の出入り…。桜、花王、馬酔木、蒲公英、菫…。このシリーズは、日本に伝わるそれぞえの名前を集めて、カラー写真・詩・エッセイでつづる写文集である。日本人は、昔から四季による自然の変化に敏感で、自然との触れ合いの中で、言葉も豊かに発達させてきた。しかしいま、自然の気配を敏感に感じ取る力や感じる機会が日本人から失われている。そして自然を表す言葉は急速に消えつつある。このシリーズを読んで私たちが本来持っていた感覚を取り戻してほしい。


傳田 光洋/著  
『皮膚感覚と人間のこころ』 新潮社 (市立・成人141.2/ /13)
『賢い皮膚 思考する最大の<臓器>』 筑摩書房 (市立・成人491.3/ /09)
『第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界』 朝日出版社 (市立・成人141.2/ /07)
『皮膚は考える』 岩波書店 (市立・書庫491.3/ /05)

高橋 順子/文,佐藤 秀明/写真  
『雨の名前』 小学館 (市立・書庫451.6/ /01)
『風の名前』 小学館 (市立・書庫451.4/ /02)
『花の名前』 小学館 (市立・書庫470/ /07)