『リバー・ワールド』 川合大祐/著 書肆侃侃房(市立・成人 911.46//21)
まず、書架での立ち姿を見てほしいです。シルバー川柳がずらっと並ぶ横に、どん、とたたずむ真っ赤な背表紙。厚さはまわりの本の倍はあるでしょうか。そこへはみ出さんばかりにタイトルが貼り付いています。『リバー・ワールド』。少年マンガのオノマトペみたいな、ぎざぎざのオーラがほとばしる字。
一見なんの本だかわかりませんが、分類通り川柳の句集です。しかし中身は、想像とまったく違うと思います。いくつか句を引いてみると、
トマト屋がトマトを売っている 泣けよ/川合大祐
花の名をだれも信じてくれない日
横綱を言葉で言うと桜桃忌
いわゆる川柳が重んじる「共感」を、煮詰めに煮詰めてできてしまった異形の文字列。このような川柳=現代川柳が、全部で1,001句掲載されています。
はじめは1句1句に「?」となるかもしれません。でもそのうち、ほどよいレイアウトに運ばれて、飛ばし読みできるようになってきます。それでいい。そうしてめくっていくうち、きっとどこかで急ブレーキがかかります。そのページにある句があなたの、あたらしい感情の回路へ、大量の電流をどっ、と流してくれるはずです。
恐竜でひらかなかった扉の前に/川合大祐
わたしにもわたし逃げ去るための橋
現場にはスーパーボール跳ねており
「山本リンダ」
道 彼と呼ばれる長い神経路
17音にこれだけのことが込められるんだという驚き、そして込められたことからこんなにも世界が広げられるんだという歓びを、どうぞ1,001句分浴びてみてください。そしてもしよかったら、あなたに急ブレーキをかけさせた句、こっそり教えてくださいね。
死、の文字を、もうすぐあめ、と読み上げた/川合大祐