2024年9月の記事一覧
考えつづける、笑いながら ~「何度だって読みたい本!」~
『あの素晴らしき七年』 エトガル・ケレット/著 秋元 孝文/訳 新潮社 (市立・成人 929.7//16)
ものすごくへこむ日がある。
そんな日は『あの素晴らしき七年』を、どの話でもいいからひとつ読む。
作者・エトガルの身に起こることは、重い。イスラエルはテルアビブ出身のユダヤ人だから、よくある問題も、ややこしさを増して襲い掛かってくる。生まれたばかりの息子の将来や家族関係にも、国内情勢、テロリズム、ユダヤ教との付き合いなんかが絡みつく……なにせ息子が生まれたのは、テロリストによる攻撃の真っただ中だ。
なのにエトガル、話が上手すぎて、どんなに話が重くても、笑ってしまう部分がある。
空襲警報が鳴ったのに立ったままの息子を腹ばいにさせようと、「パストラミ・サンドイッチごっこ、する?」と誘ったんだそうだ。おもしろすぎる。それで、妻、息子、自分、と腹ばいで重なって、「パストラミ!」と叫ぶや、向こうへ爆弾が落ちた。これがエトガルの、生活のリアルだ。
大事なのは、ことの重さを肌で感じつつ笑うこと。読んでいくうち、自分の生活と重なる部分が見えてきて、気が付いたらエトガルといっしょに笑ったり泣いたりしている。だからここに入った三十六篇のエッセー——エトガルに息子が生まれ、自身のお父さんが亡くなるまでの七年間のできごとは、どれも短いのにとても重たく、とても重たいのに他人事にはならない。せめて、ツレに起こった事くらいにはなる。そう思って読めば、どれほどつらくても、やってってみようか、という気に少しはなれる。この少しが、いかにすごいことか。
ものすごくへこむ。たびたびへこむ。そのたびこの本が読みたくなる。テレアポを断る口実をどこまで膨らませられるかとか、本の献辞に飽きた時いかにふざけられるかとか、ポーランドの細長い土地に建てた薄い家のこととかを、エトガルから面白おかしく聞く。そうすることで、またやってこう、と思えるための温みのようなものを、少し分けてもらっているのだ。
2024年のエッセーコンクールのテーマは、「何度だって読みたい本!」です。
これを読んで、エッセーを書いてみたいと思った方、「読書に関するエッセーコンクール」へぜひご応募ください!
あなたの「何度だって読みたい本」、教えてくださいね。
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