2016年10月の記事一覧
東京會舘を愛した人たち
『東京會舘とわたし』上・下 辻村深月/著 (市立・成人 913.6/ツシ/16)
『図書室で暮らしたい』 辻村深月/著 (市立・成人 914.6/ツシ/15)
東京會舘といえば、芥川賞や直木賞の受賞記者会見が行われる会場としてご存知の方も多いのではないでしょうか。『東京會舘とわたし』(上・下)の主人公は、この建物「東京會舘」です。大正から昭和、そして平成という激動の時代を経験した東京會舘。その場所に関わり、その場所を愛したさまざまな人たち(作家・バーテンダー・菓子職人・結婚式を挙げた人など)の心あたたまる物語が時系列で描かれています。それぞれを短編として読むことも出来ますが、最後まで読んでいくとひとつの壮大な物語として完結します。訪れたこともない東京會舘が、まるで自分もその歴史をずっと見てきたかのように身近に感じられる読後感は、さすがと唸ってしまう辻村ワールドでした。
直木賞作家である著者は、受賞前に東京會舘で結婚式を挙げたそうです。その時、“直木賞を受賞して戻ってきます”と告げ、4年後にそれは本当に実現しました。支配人はそれを覚えていて“おかえりなさいませ”と迎え入れたという感動的なエピソードもあり、東京會舘への愛が詰まった物語が誕生したのも納得です。
初代を旧館(上巻)、そして建て替え後を新館(下巻)として記された、東京會舘の物語。
同著者の「東京會舘の思い出」が収録されているエッセイ『図書室で暮らしたい』も併せてオススメします。