2018年2月の記事一覧
上質の歴史ミステリー
「修道士カドフェル・シリーズ」 全21巻(短篇集含む) エリス・ピーターズ/著 社会思想社 (市立・書庫 B933/ヒタ/01)
舞台は12世紀イングランド。王と女帝が相争い、国は内乱状態。そんな世相を背景に、初老の修道士カドフェルが、毎度起こる事件の解決に挑むという物語です。
見どころはまず、中世ヨーロッパという時代背景に起因する“新しさ”でしょうか。現代社会ではまず遭遇しないであろう状況・考えつかない解決法が、作中には度々登場します。しかしそれは読者が「理解できない」と遠ざかってしまうようなものではなく、むしろ歴史ミステリーならではの目新しさ、意外性となって、読者を惹きつける役割を果たしています。
次に、いわゆる“名探偵とパートナー”に当たる2人の関係です。少し乱暴な括り方をしてしまいますが、名探偵とパートナーというと、名探偵の天才性・特殊性にばかり重点が置かれて、パートナーはかすみがち、もしくは引き立て役、というイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、この作品の2人に関しては、そのような印象を受ける読者は皆無と言ってよいでしょう。主人公のカドフェルは、豊かな人生経験に基づく判断力と洞察力、そして持ち前の行動力で、事件の真相に忍耐強く迫ってゆく紛れもない名探偵です。そして彼のパートナーたる人物(物語の都合上、名前はここでは明かしません)もまた、主人公とは違う、己の持てる力でもって事件に切り込んでいく、言わばもう一人の名探偵なのです。もちろん主人公はカドフェルなので、この人物は“最高に頼りになる協力者”という描かれ方ですが。2人は年齢も身分も、生きる世界も大きく隔たっています。しかし、お互いを認め合い、足りない部分を補い合える、限りなく対等な無二の親友でもあるのです。
「歴史ものは難しい」、「キリスト教はよくわからない」という方、ご心配なく。歴史や宗教の知識なんてほとんど必要ありません。知らない単語が出てきても、「ははあ、こういうものがあるんだな」と思ってそのまま読み進めていけばいいのです。全く問題なく楽しめるでしょう。
ドイルやクリスティなどなら、かなり読んだという方や、軽すぎず重すぎず、しかし読みごたえのあるミステリーを読みたいという方には、特におすすめの作品です。
得する人,損する人 ~ 一度の人生,さあ,どう生きるか? ~
「すばらしい人に 出会いなさい。亡くなった人は,その人の“血や肉である 作品や書物”に出会いなさい。」…… 学生時代の恩師のことばです。
さいわい 私たちのまち・四日市では、文化会館などで 講演会や舞台、演奏の場があり、多くの刺激・エネルギーを得ることができます。(*2月10日は,四日市ゆかりの直木賞候補作家・伊吹有喜さんの講演会もあります。《図書館主催》満員御礼!! )
日ごろ、図書館をご利用の皆さんには、「人生航路の“羅針盤”」として、次の3冊をおすすめします。ぜひ身近な本で、“すばらしい人”に出会って、「得」をしてみてください。
『戦場から女優へ』 サヘル・ローズ/著 文藝春秋 (779.9/ / 09)
イラン・イラク戦争の空爆で村が全滅するも、たったひとり生き残り、孤児院へ。来日後、ホームレス、いじめなどの苦難を乗り越え、滝川クリステルさんのものまねをきっかけに、芸能界へ。現在は、NHK「探検バクモン」や ネプ&イモト「世界番付」などで活躍するイラン人タレントの壮絶な半生。
『夢を食いつづけた男』 植木 等・北畠 清泰/著 朝日新聞社 (市立・書庫 914.6/ウエ/84)
あの植木等のお父さん、植木徹誠(てつじょう)の一代記。 御木本真珠店の貴金属職人、クリスチャン、僧侶など多彩な経歴。戦時中、「戦争は集団殺人だ」と特高に浴びせ、検束・拷問。さらには、部落解放運動を展開するなど、常人では歩めない人生を歩んだ人。
『おくりびと』 百瀬しのぶ/著 小学館 (B913.6/モモ/08)
映画化で、一躍 脚光を浴びた作品。スクリーンでは 美しい映像に魅了されるが、原作には、LGBT、過疎化、少子高齢化、孤独死など、現代社会が抱える問題も多く含まれている。今、私たちは、どう生きればいいのか、さまざまな示唆に富んでいる。