2019年7月の記事一覧

「美術と文学の共演」100年前にタイムスリップ!

『片隅の美術と文学の話』 酒井 忠康/著 求龍堂 (市立・成人 702.1//17) 

 
 この本は、文学と美術をめぐるエッセイ集です。今年2019年は、関根正二と村山塊多という二人の画家が、若い生涯を終えて百年にあたります。そして、百年前の1919年は、盲目の詩人エロシェンコが再び日本を訪れた年でもあります。
 
 芥川龍之介、岡倉天心、鏑木清方、川端康成、古賀春江、志賀直哉、澁澤龍彦、高村光太郎、竹久夢二、谷崎潤一郎、夏目漱石、西脇順三郎、萩原朔太郎…。世田谷美術館の現館長である著者の美的センスと学芸員としての経験によって綴られたエッセイからは、一筋縄ではいかない強烈な個性の近代日本を代表する文豪や詩人、画家たちの生き様と、当時の厳しい時代背景が目に浮かんできます。美術と文学が、たがいに照応し想像の刺激を共有しながら、時代の文化・藝術の思潮とも相互に関連をもって、じつに興味深い展開を示しています。

 文豪や詩人、画家たちの精神が映し出されたサイドストーリーは、文学好き、アート好きどちらにも本を手にする喜び、絵を観る喜びに誘ってくれるものになっています。



 

この絵はどんな人が描いている?

『近代美術の巨匠たち』 高階 秀爾/著 青土社 (市立・書庫 723.0)

 皆さんは芸術家とはどのような人たちだと思いますか?気難しくて、頑固者、いつも一人孤独に作品の制作に打ち込んでいる。そのようなイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?
 
 本書では、19世紀半ばから20世紀前半にかけて活躍した近代を代表する13人の画家が取り上げられています。日本における西洋美術研究の第一人者である筆者は、画家の性格や芸術上の特徴を象徴するエピソードを盛り込み、13人それぞれの強烈な個性、芸術家としての自意識の強さを伝えています。一方で筆者は、ゴッホやゴーギャン、アンリ・ルソーといった著名な画家についての一般的なイメージとは異なるエピソード、あるいは広く知られていない事実を取り上げることで、従来の通説とは異なる芸術家の実像を描き出しています。私は、現在広く知られている芸術家のイメージには創作、あるいは誇張されたものが多く含まれているのではと考えずにはいられませんでした。

 有名な《睡蓮》や《ひまわり》を描いた画家がどんな人物であったのかという好奇心から、私は本書を読み始めました。そして、それまで興味がなかった画家についても、人となりを知ることで親近感を覚えるようになり、作品を意識して見るようになりました。絵画に興味があるけど難しそう、とっつきにくいと思う人にこそ、多くの画家や作品と出会うきっかけとしておすすめしたい一冊です。

昆虫は、この星で大成功している生き物である

『昆虫戯画 びっくり雑学辞典』 丸山 宗利/文・じゅえき太郎/漫画 大泉書店 (市立・成人 移動 楠・成人 486.0//18)

 「えっ!」とおどろき、クスッと笑えてしまう昆虫の姿や生活を集めた本書。

 ちょっとマヌケに見えてしまうような生き方にも意味があって、笑いの中にも感心してしまう生き抜く術があります。例えばアリ。アリと聞くと、クロアリ、白アリぐらいしか知らなかったのですが、巣のフタ役をするヒラズオオアリ、幼虫に糸を吐かせて巣を作るツムギアリ、見方を守るために捨て身の技があるバクダンオオアリと一括りにアリといっても個性豊かな生存方法があるのだと、「えっ!」とおどろきクスッと学べます。他にも、今が旬の蚊。蚊のメスが人間の血を吸うことはよく知られたことですが、ではオスは何を食しているのでしょうか。なんと花のミツ。なぜなのかは本書を探してみてください。


 昆虫の辞典と聞くと生々しい写真を連想すると思いますが、本書ではカラーイラスト。それも、ゆるんだ表情に昆虫たちの特徴をとらえた一コマが描かれています。パラパラとイラストをめくるだけでも楽しく学べる一冊となっています。