2025年9月の記事一覧
【募集は終了しました】「おもしろいエッセーって…」 読書に関するエッセー募集中!
『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』 kemio/著 KADOKAWA (市立・成人 779.9/ /19)
エッセーコンクールの担当として、たくさんのエッセーを読む機会をいただいています。
昨年の応募総数は164作(ありがとうございます!)! それだけのエッセーを読むと、「自分はエッセーの、どういうところをおもしろいと感じているんだろう?」と考えるようになりました。
思うにエッセーのほとんどは、「書き手に起こったこと」と「それを経て書き手が考えたこと」でできているのではないでしょうか。
そこへ文体、つまり「書き手がどんな距離感で読み手に伝えようとしているか」のいろどりが加わることで、書き手それぞれのリズムに乗って、こちらへ伝わってくるように思えます。
そんなわけで今回紹介するのは、kemioさんの『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』です。
モデルや歌手、動画クリエイター等多岐に活躍されるkemioさん。その経験と考えが、kemioさんの口調そのままで書かれています。なんたって冒頭から、
「地球上のみなさーん! 初めましての方、お帰りなさいの方、バーキンは持たないけどエコバッグは所持系のセレブことkemio、けみおでーす!」(P.022)
……ここだけ引くと、乗れる人乗れない人をはっきり分けそうですが、
「私、棺桶までのレース、ガンガン走っておりますが、みなさんのレースは順調ですか?」(同)
と続くと、お? と身を乗り出してしまいます。
「棺桶までのレース」という、kemioさんの語り口からは想像できない深さからのワード。そんなことばどこから? と思ったらもう、つかまれています。あとはあっという間。生活、恋愛、将来についてしゃべりまくるkemioさんのペースに引っぱり回されるばかりです。
口調を離れて冷静に見ると、kemioさんの来し方は相当にヘヴィです。しかしそう思わせないのは、ひとえにkemioさんのしゃべりそのままの文体の力。抵抗を感じる前に読ませてしまう、オープンな力があります。
「今やること、やらないことって結局賭けでしかなくて、ウチら一生ベガス。まじで」(P.163)
「今を楽しくする方法を常に考えてる。(中略)振り返ったら「あ、充実してた」みたいなHAPPY ENDで締め上げる」(P.172)
エッセーを読むことが、書き手の経験と考えを読むことなのだとしたら、実はそれってかなり、おしゃべりに近いのではないでしょうか?
読んでくれる人とおしゃべりするように書けたら、たくさんの人に伝わり、またたくさんの考えが生まれるきっかけにもなりそうです。楽しみですね!
図書館では、今年も読書に関するエッセーを募集しています。
2025年のテーマは「今、いちばん読んでほしい本!」です。
誰かにおすすめしたい本の中でも、2025年の今、気分はこれ!という本や、2025年、こんな情勢だからこそ読んでほしいと思う本について、エッセー(随筆)にしてください。
またはあなたの読書法や、読書論についてのエッセーも可です。
ご応募お待ちしております!
野球を楽しむ
『野球と応援スタイル大研究読本』 ジン トシオ/著 カンゼン(市立・成人 783.7//22)
わが家には野球大好き家族がいて、プロ野球シーズンともなると毎日テレビで野球中継を見ている。
地元チームが一番のお気に入りだが、他のチームの試合を観戦することも好きで、複数試合中継している日はパラダイスらしい。
『野球と応援スタイル大研究読本』は、日本ハム、ロッテ、楽天の応援団を渡り歩き、高校野球や様々なスポーツの応援歌を作曲してきたジン トシオ氏によるもの。応援とは何か、どんな応援があるかという話からどのように応援や応援歌が作られるのか、試合における応援の流れや楽器術など応援に関するさまざまな情報が詰め込まれている。
「応援の目的は、勝利のために選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境作り」とあるが、一言で応援と言ってもとても広い世界なのだと感じた。
私自身はなかなかゆっくり中継画面を見ることができず音だけを聞くことが多いが、シーズンも終盤にさしかかった今、試合はもちろん応援にも注目して楽しんでいきたい。
こちらも楽しい1冊。2005年から2024年までの20年間のファンクラブの歴史を主な特典とともに振り返ることができます。
『プロ野球12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』 長谷川 晶一/著 集英社(市立・成人 783.7//24)
仕掛けのある小説
『ターングラス 鏡映しの殺人』 ガレス ルービン/著 越前 敏弥/訳 早川書房 (市立・成人 933.7/ルヒ/25)
図書館で働いていながらも普段あまり小説を読まない私。そんな私でもつい手に取ってみたくなるのが、"仕掛け"のある小説だ。
読む順番で物語が変わる道尾秀介の『N』然り、袋とじを切り開いて読む泡坂妻夫の『生者と死者』然り、一風変わった仕掛けの施された小説に心惹かれる。
そんな私が3冊目として読んだのが、ガレス ルービン『ターングラス 鏡映しの殺人』。外国人作家によるミステリー小説だ。
この本は、表と裏の両方から読み進めることのできる左右両開きの形をとっており、表から始まる物語と裏から始まる全く別の物語が、互いの謎を解決へと導く鍵となっている。
ぜひ一度この本を手に取り、初回の読了時にのみ味わえる仕掛け本ならではの驚きと感動を体感していただきたい。