2021年5月の記事一覧

夢中になることの素敵さ

『さかなクンの一魚一会』 さかなクン/著・イラスト・題字 講談社  (市立・児童 289/サ/16)

 
 魚のことについて知りたいと思ったときには「さかなクン」の著書がお薦めです。さかなクンは、それぞれの魚に関する知識にその魚の魅力を含めて伝えてくれます。彼のイラスト画もチャーミングで、知らない間にその魚を好きになってしまいます。
 
 でも、この本は魚を紹介している本ではなく、さかなクンの自叙伝です。はたらく自動車を描くのが大好きだった幼い男の子が「さかなクン」へと成長していく様子が、様々なエピソードとともに描かれています。楽しく読み進める中で深く私の心に残ったのが、さかなクンのお母さんの子育ての姿勢です。かなり昔に子育てを終えた私にとって自責の念に駆られる思いがしました。子どもが発する個性的なエネルギーに戸惑いを感じているお母さんやお父さん、そして、学校の先生に、ぜひお薦めしたい一冊です。

虫という自然を武器に

『法医昆虫学捜査官』シリーズ 川瀬七緒/著 講談社 (913.6/カワ/12~)

 
 法医昆虫学とは、遺体に寄って来る虫の種類やその生態から、殺害が行われた時間・環境等を割り出し、事件解決への手掛かりとするというものです。物語は、まだマイナーなこの分野を、捜査手法の一つとして確立・実用化しようと奮闘する、一人の学者を主人公として進んでいきます。
 どこまでも本能に忠実な虫たちには、自我や思考によるブレがありません。どんな状況下においても、虫たちは常に、それに即した“正しい”行動をとる。それを知悉している法医昆虫学者の推理・考察は(判断を下せない段階では下さない、という選択も含めて)、科学的根拠に基づいて実に的確です。こうした作品の常で捜査本部の方針とはよくぶつかりますが、昆虫学の知識と行動力で着実に真相ににじり寄っていくその様には、理が通っているからこその安定感と爽快感があります。
 
 取り扱う題材が題材だけに、事件現場の有様も凄まじいものが多く、映像化は難しいかと思われます。ぜひ文章でお楽しみ下さい。