2022年3月の記事一覧
それ、捨てちゃっていいの?
『捨てない生きかた』 五木 寛之/著 マガジンハウス (914.6/イツ/22)
断捨離ブーム真っただ中の現代社会。そのような時代、捨てないことの大切さに焦点を当てて語りかけてくるこの本は、ガラクタに囲まれて暮らしている身には自己肯定されたような、なんともホッとできる内容でした。
この本で作者は、自分が何故モノを捨てられないかという理由を語ってくれます。その理由とは、モノにはすべて記憶があり、そのモノを手にする時、他者には決して理解してもらえない自分の想いが残されているからなのだそうです。
作者にとっての記憶を呼び覚ますモノとは、物理的な物だけとは限りません。例えばたったひとつのメロディーからでも、懐かしい香りからでも、記憶は覚醒してくるのです。
ここから、作者の視野はさらにひろがってゆきます。捨てないモノの対象には、例えば、どこかの町に残っている碑、地方の方言、言い伝えの伝承といったものも含まれています。それらを通じて、未来の人間は過去の記憶や人々の想いとつながりを持つことができるからです。
小説、エッセーで多くの人々に親しまれる作家が記すモノを捨てない生き方。雑誌のような気楽さで肩こらずに読める一冊です。