図書館スタッフおすすめ本

三十一文字(みそひともじ)の世界へ

『うたわない女はいない』 働く三十六歌仙/著 中央公論新社(市立・成人911.16//23) 

「食っていけるの? そう笑ってた人たちをシャネルのバッグでいつか撲(ぶ)ちたい」 野口あや子

どこかで紹介されていたこの歌に、一瞬で心をつかまれました。
なんて力強くて、すがすがしい!

この本は、女性歌人35人と一般公募で大賞に選ばれた1人の計36人が、「働くこと」をテーマに短歌と短いエッセーをつづっています。
エッセーがあることにより、歌が詠まれた背景が想像しやすく、短歌になじみのない人にもおすすめです。

「日曜のにぎわいのまま残された寝ている本を起こしてまわる」は、図書館で働く谷じゃこさんの作品。
休館日明けの図書館の風景を詠んだ歌、本を起こしてまわる、という言葉のチョイスに愛を感じます。

花山周子さんの「床の面積」では、子育てと、働くことの現実が。
「下校した娘には休む場所である家であるゆえひろがれる娘」 
「床の面積が心の面積 然れども地獄絵図のごとき床を見降ろす」
外の世界で、少なからず緊張や我慢をしてきたであろう子が、自分の家でのびのびと広がる姿は愛おしい。
愛おしいけど・・・地獄絵図のような床ばかり見てたら、そりゃ眉間にしわもよりますよ。
 
言葉を選び、そぎ落とし、三十一文字に落とし込んだ短歌の世界、ぜひ味わってみてください。

図録を楽しもう!図録で学ぼう!

『集まれ!三重のクジラとイルカたち』 吉岡基/ほか監修 三重県総合博物館(市立・地域 L489//22) 
『やっぱり石が好き!』 三重県総合博物館(市立・地域 L458//21)

夏休みの自由研究・郷土研究であなたが調べたいテーマの図録、あるかもしれませんよ!

図録とは、博物館や美術館が行う企画展の内容をまとめた冊子のことです。
地域資料室では、県内・市内の美術館や博物館、資料館が発行した図録も集めています。
難しいものが多い地域資料ですが、図録であれば大人から子どもまでが楽しめるものもありますよ。

図録の魅力は何でしょう。
初めに思い浮かぶのは、写真や図が多いので、見て楽しめることでしょうか。
図録は、写真や解説などの基本情報から、研究者の論文までが載っていて、大まかに知りたい初心者にも、知識をより深めたい人にも役立つ資料でもあります。
また、自然に関するテーマを歴史的な視点からも見るなど、あらゆる方面からアプローチできることも、図録ならではかもしれません。
例えば、MieMu(みえむ・三重県総合博物館)の図録。
『集まれ!三重のクジラとイルカたち』には、三重の海で暮らすスナメリやクジラとともに四日市でも行われている「鯨船行事」について、 『やっぱり石が好き!』では、三重の岩石鉱物はもちろん、岩石信仰や石器など人々との関わりについても紹介されています。

見て楽しい、読んで役立つ「図録」。一度、図録をのぞいてみませんか?

2階地域資料室には、それぞれ書かれている内容の場所に図録が置いてありますので、職員までおたずねください。

エッセーってなあに? ~「読書に関するエッセーコンクール」募集開始~

『エッセイストのように生きる』 松浦 弥太郎/著 光文社 (市立・成人 901.4//23)

今年も、「読書に関するエッセーコンクール」の応募受付が始まりました!
そこで今回は、エッセーを書くのはどんな人なのかを紹介していきます。
 
現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」でも、ききょう(清少納言)が傷心の中宮定子を癒すため、定子と過ごした輝かしい日々を書き止めることを始めました。これが後に「枕草子」となるわけです。
 
清少納言のように、強烈な体験がなければエッセーを書くことはできないのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
 
『エッセイストのように生きる』の著者・松浦弥太郎は、30年以上エッセーを書き続け、エッセーを書くことを生業としています。清少納言やさくらももことは異なる、職業がエッセイストの方ですね。
しかし著者は、エッセイストとはただの職業ではなく生き方であると説きます。
エッセーを書くことで、自分自身を知り、心の中に自分の居場所を守り続けてきたそうです。
 
本書では、エッセーとはなにか、エッセイストとして生きるとはどういうことかという点から、エッセーを書くための思考法や読書のコツ、プロットの作り方まで丁寧に指南してくれます。
著者曰く、エッセーの秘訣とは自分だけの「視点」と「秘密」。
本書を読み終えたころには、エッセーを書きたくてうずうずしているに違いありません。
 
いかがですか? だんだん、エッセイストという生き方に興味が沸いてきませんでしたか?
2024年のエッセーコンクールのテーマは「何度だって読みたい本!」です。
これを読んでエッセーを書いてみたいと思った方、「読書に関するエッセーコンクール」へのご応募をお待ちしています!
詳しくはこちらをご覧ください。

「読書に関するエッセーコンクール」作品募集中(市立図書館ホームページ内の別ページが開きます)

あなたも食べたことがあるのでは?

『日本お菓子クロニクル』 日本懐かし大全シリーズ編集部/編 辰巳出版 (市立・成人 588.3//23) 

 この本を開いたら、皆さん懐かしいと思うのではないでしょうか。
実は、昭和の時代から現代までの、お菓子のパッケージ写真が掲載されているのです。
昔と比べると、パッケージが変化しているものがたくさんあります。
例えば、キャラメルのお菓子で大人気の「グリコ」。
昔と比べて変化しているイメージは無かったのですが、あのばんざいポーズのお兄さんの姿が代わっていたり。
他にも、男の子のパッケージのイメージが強い「ビスコ」。
1933年販売のものだと、なぜか男の子はいません。
その代わりに、「グリコ」のお兄さんがいたりと、「ビスコ」なのか「グリコ」なのか、よくわからない不思議なパッケージの時もあったみたいです。
他にも、イメージキャラクターが、年々変化しているお菓子も沢山ありました。
この本を見ると、昔のパッケージの復刻版が出てくれないかなと、つい期待してしまいます。
皆さんもこの本を見て、子供の頃に食べたお菓子の記憶を思い出してください。

「気候変動」がますます悪化すると…

『気候崩壊 次世代とともに考える』 宇佐美 誠/著 岩波書店(市立・成人 519//21)
   セットで読むなら『地球のために今日から始めるエコシフト15』 箕輪 弥生/著 文化学園文化出版局
(市立・成人 519//23)

   25年ほど前だろうか。新聞の広告欄見開きにばーんと載っていたのは清水寺の写真。そして「清水の舞台から飛び込む(?だったと思う)」清水の舞台ぎりぎりまで、なみなみと水が押し寄せている写真だった。もちろん合成。地球温暖化が原因で、海水面が上昇するぞという警告。私は「そんな大げさな…」としか思わなかった。確かに大げさな演出ではあったが、現在の状況を考えると、その頃の私はなぜもっと関心を持てなかったのだろうと思う。本書によると温室効果ガスが温暖化を引き起こすだろうと最初に指摘されたのは1896年だというのに。
  海面上昇によって沈む陸地、生きるために気候変動に適応していかなければならない生き物たち、地球に与える影響は恐ろしい。しかし地球が気候崩壊しないためにも、恐ろしく思っているばかりではいけない。紹介したもう1冊も是非読んでほしい。生活の中で実践しやすい事柄が満載だ。わかりやすく、コンパクトにまとめられている2冊である。

ようこそキングの世界へ

『スティーヴン・キング大全』 ベヴ・ヴィンセント/著 河出書房新社(市立・成人 930.2//24)

ステーヴン・キングの作品は映像化されたものが多く、『キャリー』や『スタンド・バイ・ミー』などはご存じの方も多いかと思います。
ホラー作品から社会派もの(例『グリーン・マイル』)などテーマも幅広く、長編やシリーズも多いのでどれから読み始めようかと思っている方にこの『スティーヴン・キング大全』はおススメです!
年代別に分かりやすく紹介されていたり、どんな子ども時代を過ごしていたかなど、キングのこともまるごと知ることができます。
また、作品と作品が実はつながっていた!ということが分かるのも楽しいです。
この本をきっかけにあなたもキングの世界にはまってしまうかもしれませんよ!

知っていますか?「蘭字」

『蘭字ー知られざる輸出茶ラベルの世界ー』 齋田茶文化振興財団齋田記念館/編集・発行 (市立・地域 L675//20)

この資料は、東京にある齋田記念館で行われた「蘭字」をテーマにした展示の図録です。

「蘭字」とは、日本からお茶を輸出する際に茶箱の側面に貼られたラベルの総称。
始まりは定かではないようですが、政府がお茶の栽培と輸出を奨励した明治期頃から、
盛んに製作されていたようです。

蘭字には、種類・品質・産地・ブランド名・輸出商社などの情報が記され、なかには、文字情報と共に日本や西洋をモチーフにした絵柄も施されたものもありました。
カラーで刷られたそれらは、デザイン的にも美しいものが多くあります。

ここ四日市からも多くお茶が輸出され、茶箱には四日市で製作・印刷した蘭字も貼られました。
この資料には、四日市の印刷会社や市内の郷土資料館に残る蘭字やその見本帳なども登場します。
どんな種類のお茶がどこで作られ、どんな商社を通してどこの国へ運ばれていたのか…
蘭字からは、四日市のお茶の歴史とともに、流通の歴史も垣間見ることができます。

デザインの美しさを楽しみ、歴史の一片も知ることのできるこの資料。
ぜひ、2階地域資料室で、手に取ってみてください。

墓マイラーって知っていますか?

『世界のすごい墓』 地球の歩き方BOOKS W31 旅の図鑑シリーズ) 地球の歩き方編集室/編集 Gakken(市立・成人 629.8//23)

 偉人、著名人の墓巡礼をする人のことを墓マイラーというそうです。
日本では墓巡礼の文化は古く、掃苔家(そうたいか)という言葉があり、俳人の松尾芭蕉も古い歌人の墓を訪れていたそうです。
本書は、墓マイラーの名づけ親であるカジポン・マルコ・残月さんの巡礼を続ける理由や心得から始まります。
ページをめくっていくと、世界各国の美しい写真と雑学が楽しめます。さらに観光地、遺跡等には墓や霊廟が多いことに気づきます。それは、巨大な建造物だったり、森の中にひっそりとたたずんでいたり、時には不気味だったり、カラフルで陽気ささえ感じるものもあります。また、埋葬方法や形等からそこに住む人々の死生観や文化を知ることもでき、興味深いです。
 世界各国194の墓、霊廟が楽しめます。日本も13か所紹介されています。
 私は墓マイラーではありませんが、横浜へ旅行に行った時、三国志で有名な関帝廟を参拝した事を思い出しました。廟に入ると、小説の人物が不思議に身近に感じられ興奮してしまいました。巡礼を旅の目的の一つに加えるだけでも、より思い出深いものになるかもしれません。

 あなたも墓マイラーになって、文豪、偉人、著名人を身近に感じる旅に出てみませんか。

絵本を贈ろう

『夢眠書店の絵本棚』 夢眠ねむ/著 ソウ・スウィート・パブリッシング(市立・成人 019.5//23)

子どもの誕生日プレゼント、知人の出産祝いなど、誰かに絵本を贈ったことはありますか?
その時にどんな絵本を選びましたか?思い出に残っている本、好きな本、パッと目についた本……
など、さまざまあるかと思います。
もし、これから贈り物をする時に「どんな絵本が良いのかしら?」と迷っているなら、『夢眠書店の絵本棚』をパラパラとめくってみることをおすすめします。

夢眠ねむさんは、三重県出身の元アイドルで、現在は東京都で絵本を中心とした本屋さん「夢眠書店」を経営しています。
この本では、夢眠書店で購入できるのはもちろん、近くの本屋さんでも入手しやすい絵本ばかりが載っています。
例えば、今大人気の『パンどろぼう』(柴田ケイコ/著 KADOKAWA 児童P/シ/にんき者)や赤ちゃん向けの『じゃあじゃあびりびり』(まついのりこ/作・絵 偕成社 児童P/マ/20)。
でも、人気の本やロングセラーの本は「もう持っているかも」と悩むこともあるかも知れません。そんな時は、ぬいぐるみとセットにしてみたり、しかけがあるものを選んでみたり、“おまけ”があればもっと喜んでくれると思います。
この本では絵本一つ一つに説明が書いてあるので、読んだことがなくても想像しやすいのではないでしょうか。
実際に読んでみたくなったら、図書館でも本屋さんでも手に取ってみてください。

これは個人的な考えですが、絵本は読ませるものではなくて楽しむもの。大人だって嫌いなものは読みたくないですよね。
それと同じように、「楽しんでほしいな」という想いが大切なのだと思います。
絵本のプレゼント選びに困ったら、夢眠書店の絵本棚をのぞいてみるのも良いかも知れませんね。

中国語で推し活

『SNSで学ぶ推し活はかどる中国語』 はちこ/著 朝日出版社(市立・成人 824//23)

友人のすすめで華流ドラマを見始めたところ、あっというまにのめり込んでしまいました。
さらに好きな俳優さんもでき、これを機会に推し活を始めてみることにしました。

推し活をするとはいえ相手は中国人。まずはSNSからと辞書を片手に解読を試みるものの、これがなかなかに難しい。
「推し」や「フォロー」など、新しく生まれた言葉は辞書には載っていないし、そもそも語学力が足りません。
もちろんインターネットを使えばすぐに翻訳できますが、もっと体系的に学べる本が欲しい・・・図書館にありました!

この本はネット上で実際に使われている言葉を基本単語、ジャンル別用語などに分類して紹介。
その言葉がどのように生まれたのかといった説明や、例文も載っているので文法の勉強にもなります。
また、韓国語・日本語由来の言葉や和製英語ならぬChinglish(中製英語)なんていうものもあり、見ているだけでも面白い。
さらに、中国の推し活事情や中国ドラマなどのコラムもあり、語学学習の本としてだけではなく、現在の中国を知る読み物としても楽しめます。

もちろん韓流もありますよ!

『推したい私の韓国語』 イダヒ/著 ワニブックス (市立・成人 829.1//22)
『推し活韓国語』 柳 志英/著 南 嘉英/著 幡野 泉/監修 劇団雌猫/監修 Gakken(市立・成人 829.1//23)

闘病の日常

『くもをさがす』 西 加奈子/著  河出書房新社 (市立・成人 916//ニシ//23)

 2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8ヶ月間を克明に
描いたノンフィクション作品です。
 腋窩リンパ節転移を伴う右乳がんと診断された作者が、その告知の日から、術前化学療法を経て、がんサバイバーとなっていく日々を綴っています。ただでさえ大変な乳がんの手術をたまたま短期で住んでいたカナダですることになり、言葉も十分には伝わらない上に医療システムの違いや更にコロナ禍まで重なりとても大変だったと思いますが、常に前向きで、周りには助けてくれる素敵な仲間が沢山いて西さんはとても幸せながんサバイバーです。

穏やかで温かく、思わず笑ってしまうような読後感。
きっとここには書けないような、書き切れないことがもっとたくさんあったのだと思いますが、
会話の部分が「関西弁」で描かれていて、それが読んでいて随分と軽くしてくれましたし、救いになった気がします。

生と死、心と体を冷静に俯瞰する知性。
選び抜かれた言葉を読める幸せがあります。

いつか訪れるかもしれない闘病に関して、
そのリアルや心情がとても参考になりました。

たくさんの大切な事が書かれている。
この本はきっと、多くの人の光になると思います。
何度でも読み返したくなる そんな一冊です。

時にはのんびりした時間を

『メメンとモリ』 ヨシタケ シンスケ/著  株式会社KADOKAWA (市立・成人 726.6//23)

考えなくたって当たり前のように過ごせるから気づくときはいつも思いもよらないとき。
誰かの人生を通して気づくこともある。
『メメンとモリ』は人生について感じたことを素直に疑問にもつモリと肩の力が抜けるようでいて的を得た答えをするメメンの日常が描かれています。
短い言葉と表情豊かな絵で読みやすいです。
読み終わった後、背筋と腕を伸ばしゆっくり深呼吸してのんびりした時間が訪れます。
でもすぐ日常生活の忙しさ時間に戻ると思います。そしたらまた読んで下さい。
それを何回か繰り返していくうちにのんびりする時間も忙しい時間も愛おしく思えてきます。

推し活に迷いが生じたときに。

『##NAME##』  児玉 雨子/著 河出書房新社 (市立・成人 913.6//コタ//23)

第170回芥川賞が先日発表されました。
芥川賞候補作は発表時点では雑誌掲載の作品がほとんどを占めるので、受賞作以外は手に取ったことがない方も多いかもしれません。
そこで前回の芥川賞候補作から単行本を1冊、ご紹介したいと思います。児玉雨子『##NAME##』です。

小説家としての児玉雨子の認知度は、まだあまり高くないかもしれません。
しかし、ハロー!プロジェクトを筆頭とした女性アイドル界隈では、素敵な詩を書かれる作詞家としてよく知られた存在です。

その中でも、私が心を射抜かれた児玉雨子曲は2曲。
Juice=Juice「25歳永遠説」とモーニング娘。'21「ビートの惑星」です。

「25歳永遠説」は「地元の子ママになった あの子は転職中 うれしくて はーぁ せつないな ちょっと誘いづらい」から始まります。女性アイドル曲とは思えない程、リアルな25歳女子の心境です。
25歳が定年と揶揄されることもある女性アイドルが「25歳永遠説 何でもできそう」と歌い上げ、「どんな時もなんとかなった なんとかして来られたじゃん」「昨日 今日 明日もそう明後日も うまくいくよ わたしなら」と言ってくれる。アイドルも私たちと同じような悩みがある女の子で、25歳を過ぎても彼女たちと一緒に歩いて行けば怖いものなんかない、と思わせてくれる一曲です。

しっとりと歌い上げる「25歳永遠説」に対して、「ビートの惑星」はライブでも盛り上がるポップなナンバーです。
「老若男女 いや! どれでもないな オリジナルのyou」と私たちに呼びかけ、「月火水木金曜 土日祝も 謳歌しようか」と日々の疲れを吹き飛ばすように盛り上げます。
そして「ねぇ うちらどうしたい?」と私たちに問いかけ、「歌おうか 君がアガる歌」と寄り添い、「銀河 沸かせよう」と一緒に駆け出してくれる、アイドルの神髄が詰まった一曲です。

アイドルとファンへの高い理解度と共感できる繊細な繊細な言葉選び、このふたつを併せ持った児玉雨子がジュニアアイドルをテーマに書いた小説が『##NAME##』です。

かつてのジュニアアイドルで、今は漫画好きの女子大生である主人公・雪那。
ジュニアアイドル時代と女子大生時代が並行して進む本作では、推される側と推す側、三次元と二次元の狭間で揺れる彼女の想いが、丁寧な描写でくっきりと浮かび上がってきます。
どちらも推したことのある人は、特に感情を乱されるかもしれません。
そして何よりも秀逸なのはタイトルの『##NAME##』。分かる人には分かる、あの文化です。

今流行りなんて言われる推し活ですが、うるさい外野の声にふと迷う時もありますよね。そんなときに読んでみませんか?

人名いろいろ

『氏名の誕生 江戸時代の名前はなぜ消えたのか』 尾脇 秀和/著 筑摩書房 (市立・成人 288.1//21)

この本は、江戸時代の「名前」とはどんなものであったか、現在につながる「氏名」がどのように誕生したのかを説き明かすため、江戸後期から明治初期にかけての人名のあり方を追ったものです。

当時、人名を構成する要素には[称号/苗字][官名/通称][姓(セイ)][尸][実名]があった。武家社会や一般世間が人名とするのは[苗字]+[通称]。しかし公家世界が人名と考えるのは[姓]+[実名]であった。
えっ御免なさい。今まで私そのようなこと全然知りませんでした。

他にも、兄が勘七郎で弟が助三郎であるなどは、特段珍しいことではないという話。越前守と呼ばれている人物が越前と関係なかったりする理由。[姓](藤原.源.菅原.平など)の後ろには「の」を挟んで読むことになっているなど、はぁー、へぇー、ほぉーと思わされる情報多々あり。

読み終えて思ったのは、なぜ私は今までこれらのことを知ろうとしなかったのかということ。もっと早くに知っていれば本を読むにも、ドラマ観るにも、調べものをする時も、きっとちょっと違っていただろうに。何かおもしろい気付きがあったかもしれない…と。

そんなわけでこの本を誰かに紹介したい!と考えました。

なお、当館には他に『苗字と名前を知る事典』(奥富敬之/著 東京堂出版)や『日本人の姓・苗字・名前』(大藤修/著 吉川弘文館)などの本があります。併せてお読みください。

百年前に何が起こったのか?朝鮮人虐殺事件の真相を探る!

①『証言集関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』 西崎雅夫/編 筑摩書房 (市立成人 B210.6/18)
②『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』西崎雅夫/編著 現代書館 (市立人権同和 /210.6/21)

 今年2023年は、関東大震災から百年の節目にあたる。そこで、震災の直後に多発した朝鮮人虐殺事件についての証言集を紹介する。
  1923年9月1日、関東大震災が発生。死者・不明者10万5千余人を出した巨大災害だった。その直後から、関東周辺の被災地には戒厳令が布かれ、大規模な軍隊が出動した。
「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が暴動を起こした」…。
その混乱の中で、流言蜚語・フェイクニュースはまたたく間に広まった。そして、軍隊・警察・自警団による朝鮮人への虐殺行為が始まる。被害は、中国人や、朝鮮人と疑われた日本人にも及んだ。その被害者は、6千人以上ともいわれている。自然災害が、人為的な殺傷行為を誘発した事件である。これほどの規模の事件は、日本の災害史上、他に例をみない。関東大震災は、その副産物として朝鮮人虐殺という忌まわしい禍根を残した。
なぜ、根拠のない風説が伝染し、現実の虐殺を生んでしまったのか?事件の体験者・目撃者から多くの聞き取りをしてきた著者の経験を元に、朝鮮人虐殺発生の深層に迫る。

 戒厳令が布かれて、検閲が一層厳しかった時代。当時の政府は、虐殺事件を徹底的に隠蔽した。そのため、朝鮮人虐殺事件関連の公的史料はごくわずかだ。それでも残された公的史料から知り得ることは多い。百年前に起きた大震災の記憶を語れる人は、もう誰もいないだろう。しかし私たちには、日本人によって多くの朝鮮人が虐殺された歴史的事実を、後世に伝えていく使命がある。関連する公的史料が少ない以上、事件の真相に迫るには証言に頼るしかない。芥川龍之介、竹久夢二、折口信夫、和辻哲郎、志賀直哉、千田是也、黒澤明、田河水泡…。文化人・朝鮮人・市井の人々らの証言、子どもの作文から、当時の社会的背景や歴史的事実を学んで、明るい未来を切り開くための教訓にしてほしい。

謎の絵画が、過去と現在をつなぐ!

『海は地下室に眠る清水 裕貴/著 KADOKAWA (市立成人/913.6/シミ/23)
 
 この小説は、千葉市にある稲毛海岸が舞台となっている。海岸近くの古い洋館から、正体不明の絵画が発見された。その絵は、過去にこの地域で流行っていた「赤いドレスの女」という怪談を思い出させる。学芸員のひかりは、絵について調査を始める。そこで、映像作家の黒砂から、千葉の旧花街にまつわる資料を預かる。その資料では、ひかりの祖母が「流転」の王妃として知られる「嵯峨浩」との戦時中の交流について語っていた。過去に流行った怪談と謎の絵画、そして祖母の過去。欠片をひとつずつ紐解くと、戦時中の混乱の中で、運命に翻弄されて生きた女たちの秘められた過去が明らかに。ミステリアスなストーリー展開で、グイグイと引き込まれます。
 写真家であり、「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞した著者による小説「花盛りの椅子」もあわせて読んでほしいと思う。家具職人見習いの主人公が、震災や台風による被災家具への思いを記した連作短編。

『花盛りの椅子』 清水 裕貴/著 集英社 (市立・
成人/913.6/シミ/22)

心の中に潜む差別

『マイクロアグレッションを吹っ飛ばせ』  渡辺 雅之/著  高文研  (市立・人権同和361.8/21)

  私は少し前まで、見た目が外国人の人に対して「日本語お上手ですね。」ということについて、自然な気持ちを素直に発言していて、別にどこにも問題を感じていなかった。しかしこの本を読んで、そう言われた人が、「自分にとって当たり前なんやけどな。だって日本生まれ日本育ちやもん。外国人と日本人に分けられるのってなんかいややな。」という感情を持ったらどうだろうか。
 本書によると、「マイクロアグレッション」とは日頃から心の中に潜んでいるものであり、口にした本人に”誰かを差別したり、傷つけたりする意図“がある・なしとは関係なく、受け手の心に敵対・中傷・否定などのダメージを与える言動、とのことである。マイクロアグレッションを何度か受けていると、大変なストレスになり、差別や偏見で苦しむようになることは容易に想像がつく。
 私は試されているような感覚で本書を読んだ。自分の中のマイクロアグレッションを一つひとつ退治していくために。

8人が語る「作詞」

『作詞のための8の極意』 ヤマハミュージックメディア/編、いしわたり 淳治/[ほか著] ヤマハミュージックメディア (市立・成人 911.66//14)

 学生時代に授業で作詞をする機会があったのですが、その際に参考にしたのがこの本です。
作詞経験もなく、どうしたら良いか分からなかったのですが、この本を読んで少しだけコツが分かった気がしています。

 この本は、作詞家や作家、歌手、ラッパーなど8人の方々が作詞について語っている本です。
 練習方法や作詞のコツ、作詞のプロセス、作詞家になろうと思ったきっかけ、どんなトレーニングをしたかなど、それぞれ作詞について語っています。

 作詞をしないという方でも、作詞の裏話を語っている方もいるので、「あぁ、この曲の歌詞はこう作られたのだな」といった楽しみ方もできると思います。

 また、8人それぞれが20ページ前後で著者ごとに分かれた章のつくりになっているので、気になる方の部分だけでも読むことができますよ。

 「作詞について少しでも知りたい」と思った方、一度読んでみませんか。

塾の図書室と『ぼくは落ち着きがない』~エッセーコンクール開催中~

『ぼくは落ち着きがない』 長嶋有/著 光文社 (市立・書庫/913.6/ナカ/08)

小学生の頃通っていた塾には、小さな図書室があった。
ロビーの端に並べられた3つの机の後ろに置かれた4つのカラーボックスは、図書室というより図書コーナーというべきかもしれないが、受験生で図書館に行く時間のなかった私のオアシスだった。
 
棚には、当時話題だった村上龍『13歳のハローワーク』や、国語の入試に頻出していた中沢けい『楽隊のうさぎ』、中学生向けだろうシェイクスピア『ヴェニスの商人』、三島由紀夫『金閣寺』が並んでいた。
おそらく受験に役立つようにと、先生方が集めたり、卒業生が寄贈していった本だったのだろう。
 
まだシェイクスピアや『金閣寺』に魅力を感じられなかった私に刺さったのは、長嶋有『ぼくは落ち着きがない』だった。
ライトグリーンの表紙に踊るポップな女子高生と、裏表紙のヘッドホンの後ろ姿。
 
主人公・望美は高校の図書部員である。
やる気のない図書委員に代わって図書館を運営する“図書部”。
図書部の面々は、図書館の中にベニヤ板で区切られて作られた書庫兼部室に集まり、昼休みと放課後には本の貸出返却の業務を行う。図書室便りも作るし、延滞者にトクソク状も送る。
 
図書委員なんてつまんない仕事、と思っていた私は、わざわざ図書部に入って委員の仕事を肩代わりする望美たちに衝撃を受けた。
しかも彼女たちは優等生然としているわけでも、いわゆる文学少女でもないのだ。
筒井康隆も山田詠美も読むけれど、「金田一少年の事件簿」も「デスノート」も部室に置いて回し読みする。
電気グルーヴのCDを貸し借りして、小説家になるために書いた原稿を見せてもらって……
 
本が好きな高校生って、こんな風に友達と仲良くするんだ。
図書館に入り浸って、こんな高校生生活を送ることが出来るんだ。
 
図書室に夢を膨らませた私は、あっという間にこの本の虜になった。
あまりにも繰り返し私が借りていたので、同時期に在籍した友達は棚に並んでいるところをみたことがないかもしれないほどだ。
 
そんな大好きな小説は、急に忘れられない小説になった。
なんと、入試問題に『僕は落ち着きがない』が出題されたのである。
国語の問題に引用されたのは、望美の友達である頼子の弁当箱が大きいと噂され、空手部の男子と弁当箱の大きさ対決をするというシーンだった。
クラスでは少し浮いているという頼子。そんな頼子に、望美が感じている魅力が凝縮された場面なのだ。
 
 
   あんな風に喜怒哀楽の独特に過剰な人は絶対に「浮いてしまう」だろう。
   
   ただもう目の前のアクションに。全力で正直なリアクションを返している。
 
 
ここに引かれていた棒線は、高校の図書室でのいつかの出会いを想起させるのには十分だった。
 
図書室に夢を膨らませて入学した私は、中高の六年間図書委員を他に譲らず、最後には委員長として君臨することになるのだが……、それはまだ、少し先の話である。
 
「読書に関するエッセーコンクール」
2023年のテーマは「図書館が出会わせてくれたもの」です。
これを読んでエッセーを書いてみたいと思った方のご応募をお待ちしています!
是非、あなたと図書館の思い出を教えてくださいね。

見て、食べて、使って楽しい!

『素晴らしきお菓子缶の世界』 中田ぷう/著 光文社 (市立・成人 675.1//21)

『もっと素晴らしきお菓子缶の世界』 中田ぷう/著 光文社 (市立・成人 675.1//23)

お菓子缶ってこんなにも種類があるんだとびっくり!!
貰っても嬉しいし、贈る時もワクワクしながら選んだり、つい自分の分まで買ってしまったり・・・そんな経験ありませんか?

著者は、47年以上お菓子缶の世界にはまり、所有するお菓子缶の数は1000缶以上という中田ぷうさん。
日本のお菓子缶、日本で買える外国のお菓子缶、美術館・博物館・動物園のお菓子缶、名店のお菓子缶の歴史など、写真とともに詳しい解説が満載で、読んで楽しいお菓子缶の世界がここにあります。
缶の紹介だけでなく、コラムも充実。空き缶再利用アイディアでは、お弁当箱や植木鉢などなるほどと思うような利用法も載っています。食べ終わった後もお菓子缶は大活躍ですね。
そういえば小さい頃、お菓子缶にかわいい消しゴムやお土産でもらったキーホルダーなどを入れて、「たからばこ」と呼んでいたなーと懐かしい思い出もよみがえってきました。

著者によると、第一次お菓子缶ブームが起こったのは2010年頃、2020年頃からは第二次お菓子缶ブームが始まったようです。
色もデザインも形も多種多様なお菓子缶の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。