図書館スタッフおすすめ本
今年はどんな野菜に挑戦しようか
『西村和雄ぐうたら農法』 西村和雄/監修 学研プラス (市立・成人 626.9/ /18)
私は、ほんの少しだけですが庭で野菜を作っています。野菜作り初心者なので、うまく作れる時もあれば、失敗する時もあります。
野菜作りの一番の目的は、何と言っても自分で作ったものを食べる楽しみです。しかし、その他にも、野菜の葉に何かが食べたような穴があると、一体どんな虫が食べたのだろうか、せっかく作っている野菜を害虫から防ぐにはどうしたらいいのかなどの疑問や対処、また、これまでは特に気にしなかった虫が、害虫から野菜を守ってくれていることなどに気付くことも楽しいことです。
今回紹介する本は、本のタイトルからしても、気負わずに野菜作りを初めてみようかなと思わせてくれるような本です。私も今年は、今まで作ったことのない野菜を作ってみたいと思っています。図書館にはたくさんの野菜作りの本があります。ぜひ一度ご覧いただき、野菜作りを楽しんでみませんか。
三重郷土 名士の為人(ひととなり)に触れる
『泗水百人物の横顔』 伊藤 長次郎(丸山 半月)/著 三重日日新聞社 (市立・地域 L28/ /35)
聞いたこともないタイトル、著者、出版社の本であると思います。それもそのはず。この本は、昭和10年に発行された本なのです。三重日日新聞(明治12年創刊)に連載されていた「名士プロフィール」を改題上梓した本です。もちろん、当時の名士たちということなので、今となっては教科書に掲載されたり、郷土史などで語られたりする方々ばかり。伊藤傳七、伊藤平治郎、九鬼紋七、小菅剣之助…などなどの実業家たちが名を連ねています。
そんな彼らはどんな人だったか…。他の本で語られるような偉業の記述ではなく、どんな趣味を持っているか、こんな性格だったのか、お酒はどれぐらい飲むのだとか…少しばかりの親近感が湧くような、名士の為人を知ることが出来ます。また、戦前の発行物ということで、現代では使われない当時の言い回しや文章表現などを体感できると同時に、今ではなかなかできないような、ジャーナリストのざっくばらんな表現も楽しめます。
この本を読み郷土史を見直したとき、少しだけ郷土の名士を近しく感じられるかもしれませんね。本は2階地域資料室でご覧いただけます。(貸出可)
読者への挑戦状
『叙述トリック短編集』 似鳥 鶏(ニタドリ ケイ)/著 講談社 (市立・成人 913.6/ニタ/18)
この本によると、「叙述トリック」とは、小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリックです。読者をミスリードし、最後に勘違いを突き付けられ、「やられた!騙された!!」と悔しい思いをするものの、この衝撃がクセになってしまい、虜になった一人が私です。
この作品はタイトルの通り、叙述トリックを使用した推理小説の短編集です。他の叙述トリックを用いた作品と違うのは、タイトルと冒頭で、叙述トリックを用いているとあらかじめ記述し、読者へ挑戦状を投げかけているところです。
はじめ私は、「叙述トリックを使っていると始めから知っていたら、面白みがないのでは」と考えていました。しかし、タイトルに使っている程、読者をミスリードする自信があるのかと考えると、気になる存在になってしまい、読んでみると、おすすめしたい一冊となりました。ちなみに私は、叙述トリックを使っていると知っていて注意して読んだつもりでした。でも、見抜けたトリックが1つ、何となくそうかな?と部分的に感じたトリックが2つでした。
最後に、作中の冒頭にも記述のあるヒントをひとつ。「一人だけ、すべての話に同じ人が登場している」…あなたも似鳥鶏のトリックに挑戦してみませんか。
お直しの本
『クライ・ムキのお直しの本』 クライ・ムキ/著 日本文芸社 (市立・成人 593.3/ /16)
かつて私が子育てしていた時に、クライ・ムキさん編集の雑誌『手作りママキディ』(婦人生活社)に出会いました。洋裁なんて習ったことのない私でしたが、実物大型紙と分かりやすい作り方手順に、パンツ、シャツ、ジャケット等、沢山の作品を作りました。
洋裁には、作る楽しみと着る楽しみ、両方があります。それを教えてくれたのがクライ・ムキさんでした。残念ながらこの雑誌は1998年に廃刊になっています。しかし、これに代わる簡単手作りの本はたくさん出版され、おかげで私の洋裁好きは今でも続いています。
今回紹介するのは、手作りの本とはちょっと違って、手軽にできるリフォームの本です。新しい洋服を作るのもとても楽しい作業なのですが、古いものを甦らせる作業も楽しいものです。この本は、いまさら誰にも聞けないような、糸の通し方や結び方等の基礎知識から、一見難しそうなサイズ直しや修理の方法まで、全てカラー写真で分かりやすく解説してあります。洋裁が苦手な人でも手順通りにやっていけば、案外簡単に
「お直し完了!」となりそうです。
サイズや形が合わなくなってしまった洋服や、まだ着たいのにほつれたり、裾が擦り切れてしまった洋服を、お直しでもう一度、お気に入りの一着にしてみてはいかがでしょうか。
〝本が売れない〟現実と〝本を売る〟ための悪あがきの物語
『拝啓、本が売れません』 額賀 澪 (ヌカガミオ)/著 KKベストセラーズ (市立・成人 023.1/ /18)
私は趣味では基本小説しか読まない人間です。しかしせっかく図書館で働く身だから、と普段は足を運ばない棚で本を探してみました。そのとき出会った本がこちら。ちなみに本を手に取った理由は表紙でした。
この本は、額賀澪という2015年に「松本清張賞」と「小学館文庫小説賞」をダブル受賞した作家が、≪本が売れない≫現実を思い知り、本を売るために何をしたらいいのかを関係者に問いながら発見していくノンフィクション小説です。
作中には編集者、書店員、装幀人など作家以外の本を売る側の人が登場します。本が売れるのは、作家にとって、とても大事なこと。そのために何をしたらいいのかを考え、聞き、行動に移す姿は、今や将来、本に関わる仕事をする人はもちろん、一読者としても興味深いものになるのではないでしょうか。売り方の一つに表紙の話もあり、この本を表紙借りした私はドキリとしました。まんまと策にはまってしまった……ということです。
私はこの作家の本を読んだことがありません。しかし、この一冊を通してこの作家の文章の読み易さを知り、人となりを覗き、売れる本を作り出そうとする仕掛けに、この作家の本を近いうちに読むことを決めました。新しい作家との出会いに成功したのです。ここでは、新たな出会いとなったこの本をおすすめしますが、いつも読まない棚から本を手に取ってみるのも、たまにはいいかもしれません。新しい出会いがあるかもしれませんよ。
“可哀そう”って決めつけないで
この作品は児童養護施設を舞台に、主人公の新任職員が施設の子供や職員と関わりながら成長していく様子を描いた物語です。児童養護施設が持つイメージから皆さんは、たぶん「可哀そうで不幸な話、重たいストーリー」ではと思われることと思います。実際、私も”可哀そうな物語”でつらい気持ちになって、最後まで読み終われるかなと不安になりながら読み始めたのですが、杞憂に終わりました。
著者の描き方が上手く、重くなりそうなテーマを軽やかに明るくまとめてあるため、あっという間に読み終わることが出来ました。普段、あまりよく知られていない「児童養護施設」の現状とかかえる問題を知ることが出来て、私たち大人が本当に子供たちにすべきことは何かを考えさせられました。
そして、物語を読み終えた後の子供の手紙を読んでください。この作品の本当の存在の意義がわかり、感動が一層深まることと思います。
人を愛するということについて
原題『Call Me By Your Name』を高岡香が訳した本書は、2018年4月に公開された映画「君の名前で僕を呼んで」の原作です。
17歳の少年のひと夏のほろ苦く切ない恋を描いた作品で、主人公エリオの視点で書かれています。読者は、最後までエリオに感情移入しながら読み進めるのですが、ハッピーエンドを好んで他作品に触れてきた私にとっては、冒頭から切ないものでした。エリオの葛藤、不安、喜び…などの感情があふれるたびに、こちらも一喜一憂し、涙なしでは読めない部分もありました。
このストーリーは、誰かに恋をし、愛する心には、性別も年齢も関係ないということをテーマにしているのだと思います。また、哲学的な部分があり、少し難しいですが、詩的でとてもすてきな作品だと思います。舞台は夏のイタリアです。読んだ後にはイタリアに行きたくなると思います。ぜひ読んでみてください。
“赤いひがんばな”と言えば?
“赤いひがんばな”で思いつく物語といえば、「ごんぎつね」と答える人は多いでしょう。昭和・平成…と時代は変われども、教科書の定番はやっぱり 新美南吉。遠くに光るお城の屋根瓦、どこまでも青い空。兵十のおっかさんの白い葬列が,赤いひがんばなの中を通るシーンでは,鮮やかな色たちが目に浮かびます。
若くして星になった南吉は、「ごんぎつね」のほかにもさまざまな作品を生みました。その中でも、「牛をつないだ椿の木」や「おじいさんのランプ」は、地味な作品ではありますが、今の時代でも何か 通じるものがあるように思います。
椿の木かげに井戸の清水は今もこんこんと湧き、道に疲れた人々はのどをうるおし、また 道を進んで行くのであります。~「わしはもう,思い残すことはないがや。こんな小さな仕事だが,人のためになることを残すことができたからのォ」…… ロシアとのいくさに行く,「牛をつないだ椿の木」の海蔵さんの最後のことばです。
「日本がすすんで、自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつをすてるのだ。いつまでも きたなく古い商売にかじりついていたり、自分の商売が はやっていた昔の方がよかったと言ったり、世の中のすすんだことをうらんだり、そんな意気地のねぇことは決してしないということだ」…… 峠の半田池にランプをつるし、石を投げて次々に割る「おじいさんのランプ」の巳之助じいさんのつぶやき。
二人のことばは、時を越えて生きる私たちの心に今も強く響いてきます。
カンパニー
『カンパニー』 伊吹 有喜/著 新潮社 (市立・成人 913.6/イフ/17)
主人公の青柳誠一は、40代後半。製薬会社の総務に25年間務めてきた。与えられた仕事をソツなくこなすだけの青柳は、取り換えのきく人材と評価されリストラ候補に。そして、社長とは縁が深いバレエ団に出向を命じられてしまう。会社に戻るために青柳に残された道は、社名変更キャンペーンイベントの最後を飾るバレエ公演を成功させることなのだが、チケットが売れなかったり、公演の主役であるダンサーが突然居なくなったりと開幕すら危うい状況に。果たして公演は無事開幕するのか。
会社やバレエ団の思惑、ダンサーが現役であり続ける理由など、表舞台では想像しにくい裏側が描かれている本書。まるで裏側を覗き見ているようで、ワクワクしながら読みました。表舞台の華やかさとは裏腹に、喜びや苦悩があるのだと知りました。
また、登場人物たちが自分と向き合っていく姿が魅力的。主人公青柳も違う環境に生きる人たちと触れ合うことで、自分の居場所と必要性について疑問を膨らませていく。青柳が出した答えも考えさせられました。人物の動きや心情が事細かくていねいに描かれているので想像しやすく、バレエを知らない私でも、ついつい小説の世界に引き込まれてしまうような1冊です。
手塚治虫からの伝言(メッセージ)
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)命』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)人間の未来』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)平和への祈り』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)友情』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)ロボットと暮らす世界』
いずれも、手塚治虫/著 童心社 (市立・成人 726.1/テス/18)
こんにちは。
マンガの神様・手塚治虫が、未来の人たちに遺して、伝えていきたかった、力強くて、おもしろくて、悲しくて、心にのこるもの…を感じることができる本をご紹介します。
手塚治虫は、人類にとっての普遍的なテーマを数多くの作品に描き続けました。私たちは、「ジャングル大帝」、「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」などの作品をわくわくして見て育ちましたが、手塚治虫のマンガにでてくる未来は、明るいものばかりではありません。むしろ、未来の戦争や、人類の終末を描いたもののほうが多いくらいです。
それは、手塚治虫が未来ある人たちに、「道をまちがえてしまうと、未来はこんな暗いものになるよ。気をつけなさい。」というメッセージを伝えようとしていたから。過去の人間の愚かなまちがいを繰り返さないでいいようにという思いからでした。
アトムが描かれてから、半世紀以上が経ちましたが、そのテーマは今も私たちに問いかけてきます。目を見張るほど進歩し続けていくテクノロジーや、命の大切さ、、、どうぞ、それらを感じてください。
本が先?映画が先?
自動車メーカーのリコール隠しに勇敢に立ち向かった人たちの物語。中小運送業社長が、巨悪に立ち向かう誠実な生き様にも胸がすくわれる作品です。また、いい車、安全な車を作ろうとするメーカー技術者が、欠陥を内部告発するまでの葛藤を刻銘に描いています。
6月には映画も公開され、原作が息を吹き返しています。このところ、事実を隠したり、捏造したり、改ざんする事件が頻発しました。『白い巨塔』で山崎豊子が、医学界に警鐘をならしたように、今こそ信頼の回復と生命の尊厳を守るスタンスに立ち戻らないといけないのではないでしょうか。
また、『空飛ぶタイヤ』は、文庫本、大活字本でも所蔵がありますので、こちらもご利用ください。
はじめてのパソコンのイラッをズバリ!解決
『はじめてのパソコンのイラッをズバリ!解決』 秀和システム (市立・成人 007.6/ /16)
みなさんはこの本のタイトルどおり、パソコンが思いどおりに動かなくて「イラッ」としたことはありませんか?
この本は、初心者の方はもちろん、中級者の方にも参考にしていただける入門書だと思います。入門書らしく、パソコンが思いどおりに動かない時、「やってはいけないコト・コレ!が原因・コレ!で解決」と、3段階で対応方法が解りやすく解説されています。自分でも当たり前のように、「やってはいけないコト!」をやってしまっていた事に、正直驚きました。
みなさんの「イラッ!」が少しでも解決できるよう、ぜひ、この本をご活用ください。
俳句文学への入り口に
『怖い俳句』 倉阪 鬼一郎/著 幻冬舎 (市立・成人 911.30/ /12)
この本は、江戸から現代までの俳人の句を“怖さ”という視点から選び出した作品集です。
作品はおおよその時代ごとに配置され、各々に鑑賞文が添えられています。まえがきに「照明を落とした美術館の回廊を巡っていくように、一句ずつ怖い俳句が目の前に現れていきます。」とありますが、なるほど、そのような歩調で読み進めるのが合いそうです。
紹介される“怖い俳句”に、不吉さを忍ばせた情景・日常の中にある異空間・不気味な時代の空気・目を背けられないほどの痛み・果てしないものへの恐れ・この世とあの世とのゆらめきを思ったり、よくは解らないが何だかすごいフレーズだと驚いたりしながら、私はこの俳句集を読みました。そして“怖さ”が、俳句の魅力に触れさせてくれるとてもよい視点であることを感じました。
文中で著者は、「読者を俳句の世界にいざなう「初めの一冊」になればとひそかに思いつつ、本書を執筆している」と書いています。
俳句文学への入り口に、さまざまな俳人たちを知るきっかけに、私もこの本をオススメします。
オルゴールから聴こえてくるのは…
『ありえないほどうるさいオルゴール店』 瀧羽麻子/著 幻冬舎 (市立・成人913.6/タキ/18)
蓋や引き出しを開けると、心地よくてやさしいメロディーが流れ出すオルゴール。音楽に合わせて人形が動いたり、しかけを楽しめるものもあって、ついつい見入ってしまいますよね。私は、子供の頃にオルゴールに魅せられて、チャンスがあればオルゴールを買ってもらい、集めて楽しんでいた時期があったのを思い出しました。
この物語は、北の町にある静かなオルゴール店と、そこにまるで引き寄せられるように訪れたお客さんとの物語です。店内にはたくさんのオルゴールがありますが、耳利きの職人である店主が、お客さんの好きなメロディーをオーダーメイドで作ってもくれるのです。耳利き…とは、一体どういう意味なんでしょう?どうやら店主は、心の音楽を聴き取ることができるようです。
訪れるお客さんもちょっと訳ありな方々です。耳が聞こえないと医者から告げられた少年と手術に迷う母親や、仲間と一緒に追いかけていた音楽の夢をあきらめた少女。どうしても分かり合えることのなかった父の法事のために、故郷に帰ってきた男性など。そんなお客さんたちが手にしたオルゴールからは、まるで魔法のように人生に寄り添い、背中をそっと押してくれるような、あっと驚くメロディーが流れ出てきます。
読者も、まるでオルゴールから音楽が聴こえてくるかのように、やさしい気持ちになれるそんな物語です。オルゴールが好きな方、音楽が好きな方、ちょっとお疲れ気味の方、よかったら読んでみませんか?
ほめちぎられたい方へ
『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』 加藤光一/著 KADOKAWA (市立・成人 336.4/ /18)
三重県にほめちぎる自動車教習所があります。そこは2013年にリニューアルし、ほめる指導を始めました。
みなさんは、自動車教習所といえばどのようなイメージでしょうか。わたしの場合は、無表情のおじさんが助手席に座り、少しでも間違うようなら、思い切りブレーキを踏まれる(公道ではなく、まだコース内の段階においてです)。そして、評価には濃い鉛筆でバツ。座学の際には、一つでも聞き逃すと、本試験はおろか仮免試験にも受からないと脅されました。そんなイメージです。そして試験に落ちると、余計に追加料金がかかるシステムだったので、貧乏学生のわたしは、夏休みの間少々追い詰められながら、なんとか合格しました。
なのでほめられた記憶は一度もありません。むしろ運転は苦手、というイメージがついてしまったので免許を取得してから10年目ですが一度も運転していません。運転しなくても電車でなんとかなる生活圏だったのですが、最近引っ越しをして不便になってしまいました。これを機会にペーパードライバーを卒業したいと思っています。
運転においてもそうでなくても、ほめちぎられたいと思うわたしにとって、ここはぴったりな教習所かもしれません。ちなみに、この本の巻末には、ほめちぎる教習所がイチオシするほめ方10選が載っています。こちらは日常の中でも使えるものばかりなので、活用しようと思っています。
世界は奇跡に満ちている
「バチカン奇跡調査官(シリーズ)」 藤木 稟/著 角川書店 (市立・成人 913.6/フシ/07~)
カソリックの総本山・バチカン。ここではこの現代においても、“奇跡”の認定が行われています。「バチカン奇跡調査官」とは、この奇跡認定を求めて世界中から申請されて来る不可思議現象について、これをあらゆる角度から調査し、真に神の奇跡と認めてよいか否かを検証する任務を帯びた聖職者たちです。(注:この役職は作者のフィクションです。ただし、バチカンが奇跡認定を行っているのは本当です。)
主役は、神父として、そして奇跡調査官としてバチカンに奉職する二人の青年。この二人がコンビとなって、毎回、申請のあった奇跡の現場へ赴き、協力しながら調査に当たるわけですが、そこにはその土地の歴史や民俗、宗教、様々な人間の思惑が絡み合って一筋縄ではいきません。果ては古い秘密結社やナチスの末裔なども暗躍し、命の危険にさらされることもしばしばです。果たして二人は、奇跡の真相に辿り着くことができるのか・・・というのが物語の大筋です。
奇跡調査官は皆、何某かの分野のエキスパートで、主役の二人・平賀神父とロベルト神父もそれぞれ、医学・科学捜査の、あるいは暗号解読・民俗学の専門家です。この二人の奇跡調査を通じて、奇跡の起こったカラクリ(これが明らかにされるということは、すなわち真の奇跡ではないということなのですが(笑))のみならず、現地の現在の事情からそこに至るまでの歴史・民俗などが詳しく語られ、結果的にとても包括的で豊かな内容のミステリーになっています。
また、二人の神父の世界に対する目が限りなく対等で誠実なためか、事件や過去の歴史事実など凄惨な描写が多いにも関わらず、作品全体に不思議な肯定感、優しさがあり、人は過ちも多く犯すけれど、希望がないわけではないなと感じさせてくれます。
興味のある方はぜひご一読を。
縁起物ってどんなものがあるの?
『縁起物』 ~日本のたしなみ帖シリーズより~ 自由国民社 (市立・成人 387/ /16)
皆さんは、縁起物を購入したり、お祭りがあると参加したりしていませんか?
お守りを購入したり、おめでたい日には鯛や赤飯を食べたり。
お節料理の意味をよくわからないまま、毎年作っていたり…。
理由をよくわからないまま験担ぎしているのは何か変だなと思い、この本を手に取りました。この本には、行事やお守り・お祝い・動物と植物に分かれて、縁起物が紹介されています。
例えば、今の季節だと、「夏越しの祓え(なごしのはらえ)」という行事があります。どんな行事かと思ったら、「茅の輪くぐり(ちのわくぐり)」の事だそうです。神社に行くと、千萱(ちがや)で作った大きな輪が置いてあるのを見たことありませんか?あの輪っかをくぐる事により、罪や穢れが払われ、厄を免れるそうです。6月末に半年分の穢れを払い、次の半年に入るために心身を清め、後半の無事を祈るのだそうです。
今度は動物に目を向けると、猿や烏が神の使いだったり、植物では南天が、「難を転じて福となす」縁起の良い木とされていたり。他にも沢山あります。
あなたの知らなかった縁起物が、実は身近な所にあるかもしれませんよ。
ぜひ読んでみてくださいね。
日本が見えない
『日本が見えない 竹内浩三全作品集 』 竹内浩三/著 藤原書店 (市立・成人 918.68 /タケ/01)
“日本が見えない”、戦時中の詩人・竹内浩三の詩のタイトルです。
竹内浩三は、三重県宇治山田市(現伊勢市)に生まれ、23歳という若さで戦死します。わずか23歳の人生の中で書き記された数々の詩からは、戦時中の日本の空気とともに、今まさにそこに生きている竹内浩三という人間の生が生々しく立ち上がってきます。
「日本が見えない」と題された700ページもの分厚いこの本には、竹内浩三が残した詩や散文、日記、漫画などが、ぎっしりと収録されています。多彩な才能と、表現への抑えきれない欲求に満ちた作品からは、生きていたら会ってみたい!と思わせる魅力ある人間像があふれています。 「戦死しなかったなら、その後どんな人生を生きてどんな人物になっていたのだろう?」竹内浩三の才能を知る編者や関係者は、この本の中で皆そう語ります。
「日本が見えない」、どうにも今の日本にも同じことを感じてしまうこの頃。戦争によって未来をあっさり奪われてしまった三重の詩人・竹内浩三の詩を改めて感じていただけたらと思います。
懐かしくて、新しいもの
『「太陽の塔」新発見! 岡本太郎は何を考えていたのか』 平野 暁臣/著 青春出版社
(市立・成人 606.9/ /18)
皆さんは「太陽の塔」をご存じですか。「太陽の塔」は、1970年に開かれた日本万国博覧会(大阪万博)にテーマ館として造られました。「芸術は爆発だ!」のフレーズで有名な岡本太郎氏の作品です。岡本氏は万博のプロデューサーでもありました。「太陽の塔」の高さは70mにもなり、日本を代表する建築家の丹下健三氏が設計したシンボルゾーンの大屋根を貫き、少し可愛い感じ(個人的な感想ですが)の腕を左右に広げて、会場にそびえたっていました。実際に子供の頃、大阪の万博会場でこの塔と展示を見た私には、おぼろげながら当時の様子が、懐かしくよみがえってきます。
この本は、今回の耐震工事による改修で、再び脚光を浴びることになった「太陽の塔」について、今まで知られていなかった新しい事実が、著者の綿密な取材により、いろいろと明らかにされています。
また、一見、危険人物のようにみえる岡本太郎氏が、どんなに魅力的で、当時の一流の建築家やスタッフの気持ちをつかんでいたか…など、意外なエピソードも満載です。
所々にちりばめられているスナップ写真は、写っている人物の細かい表情までよくわかり、当時の雰囲気がよく伝わってきます。まるで、ドキュメンタリー映画を見ているような気分にさせてくれます。
48年前に圧倒的な迫力で私たちの目の前に現れ、今なおその輝きを保ち続けている「太陽の塔」とその内部。今まで知らなかった方も、出会った方も、懐かしいと感じるのか、その斬新さに驚くのか。「太陽の塔」と芸術家、岡本太郎に触れてみて下さい。
本とお酒好きにはしっくり?な小説
『飲めば都』 北村薫/著 新潮社 (市立・成人 913.6/キタ/11)
4月になり、皆さん何かと「仕事」+「お酒」の予定も多くなってくる時期ではないでしょうか?この本は、本とお酒が大好きな文芸編集者「都さん」の日常を描いたお話です。
日々、仕事に奮闘する都さん。作家や本との出会いのなかで成長していきます。色々な本・小説にまつわるエピソードや人間模様が書かれていて、本好きにもたまらない1冊です。
一方で、お酒が入ってしまうと、仕事での関係や立場を忘れ、とんでもない行動をしてしまうこともしばしばな「都さん」。武勇伝も失敗談もケタはずれにすごい。そんな都さんの周りをとりまく人々もなかなかのお酒好き。お酒の席だからこそ、立場を忘れて?腹を割って普段できない話ができ、関係が深まり、「都さん」の成長にもつながっていきます。
仕事や人間関係で悩んで・踏ん張っている「都さん」だからこそ、周りには人が集まり、(たまにほろ苦いけれど)おいしく楽しいお酒が、飲めるのだろうなと思う私でした。
今日も、おいしい一杯のために仕事がんばろうと思える小説です。そして、私も「都さん」のような飲み友だちがほしい!