図書館スタッフおすすめ本

縁起物ってどんなものがあるの?

 『縁起物』 ~日本のたしなみ帖シリーズより~ 自由国民社 (市立・成人 387/ /16)

 皆さんは、縁起物を購入したり、お祭りがあると参加したりしていませんか?
お守りを購入したり、おめでたい日には鯛や赤飯を食べたり。
お節料理の意味をよくわからないまま、毎年作っていたり…。

 理由をよくわからないまま験担ぎしているのは何か変だなと思い、この本を手に取りました。この本には、行事やお守り・お祝い・動物と植物に分かれて、縁起物が紹介されています。

 例えば、今の季節だと、「夏越しの祓え(なごしのはらえ)」という行事があります。どんな行事かと思ったら、「茅の輪くぐり(ちのわくぐり)」の事だそうです。神社に行くと、千萱(ちがや)で作った大きな輪が置いてあるのを見たことありませんか?あの輪っかをくぐる事により、罪や穢れが払われ、厄を免れるそうです。6月末に半年分の穢れを払い、次の半年に入るために心身を清め、後半の無事を祈るのだそうです。

 今度は動物に目を向けると、猿や烏が神の使いだったり、植物では南天が、「難を転じて福となす」縁起の良い木とされていたり。他にも沢山あります。

 あなたの知らなかった縁起物が、実は身近な所にあるかもしれませんよ。
ぜひ読んでみてくださいね。

日本が見えない

 『日本が見えない 竹内浩三全作品集 』 竹内浩三/著 藤原書店 (市立・成人 918.68 /タケ/01)

 “日本が見えない”、戦時中の詩人・竹内浩三の詩のタイトルです。
竹内浩三は、三重県宇治山田市(現伊勢市)に生まれ、23歳という若さで戦死します。わずか23歳の人生の中で書き記された数々の詩からは、戦時中の日本の空気とともに、今まさにそこに生きている竹内浩三という人間の生が生々しく立ち上がってきます。

 「日本が見えない」と題された700ページもの分厚いこの本には、竹内浩三が残した詩や散文、日記、漫画などが、ぎっしりと収録されています。多彩な才能と、表現への抑えきれない欲求に満ちた作品からは、生きていたら会ってみたい!と思わせる魅力ある人間像があふれています。 「戦死しなかったなら、その後どんな人生を生きてどんな人物になっていたのだろう?」竹内浩三の才能を知る編者や関係者は、この本の中で皆そう語ります。

 「日本が見えない」、どうにも今の日本にも同じことを感じてしまうこの頃。戦争によって未来をあっさり奪われてしまった三重の詩人・竹内浩三の詩を改めて感じていただけたらと思います。

懐かしくて、新しいもの


 
『「太陽の塔」新発見! 岡本太郎は何を考えていたのか』 平野 暁臣/著 青春出版社
                                                 (市立・成人 606.9/ /18)

 皆さんは「太陽の塔」をご存じですか。「太陽の塔」は、1970年に開かれた日本万国博覧会(大阪万博)にテーマ館として造られました。「芸術は爆発だ!」のフレーズで有名な岡本太郎氏の作品です。岡本氏は万博のプロデューサーでもありました。「太陽の塔」の高さは70mにもなり、日本を代表する建築家の丹下健三氏が設計したシンボルゾーンの大屋根を貫き、少し可愛い感じ(個人的な感想ですが)の腕を左右に広げて、会場にそびえたっていました。実際に子供の頃、大阪の万博会場でこの塔と展示を見た私には、おぼろげながら当時の様子が、懐かしくよみがえってきます。

 この本は、今回の耐震工事による改修で、再び脚光を浴びることになった「太陽の塔」について、今まで知られていなかった新しい事実が、著者の綿密な取材により、いろいろと明らかにされています。

 また、一見、危険人物のようにみえる岡本太郎氏が、どんなに魅力的で、当時の一流の建築家やスタッフの気持ちをつかんでいたか…など、意外なエピソードも満載です。
 所々にちりばめられているスナップ写真は、写っている人物の細かい表情までよくわかり、当時の雰囲気がよく伝わってきます。まるで、ドキュメンタリー映画を見ているような気分にさせてくれます。

 48年前に圧倒的な迫力で私たちの目の前に現れ、今なおその輝きを保ち続けている「太陽の塔」とその内部。今まで知らなかった方も、出会った方も、懐かしいと感じるのか、その斬新さに驚くのか。「太陽の塔」と芸術家、岡本太郎に触れてみて下さい。

本とお酒好きにはしっくり?な小説

 『飲めば都』 北村薫/著 新潮社 (市立・成人 913.6/キタ/11)

 4月になり、皆さん何かと「仕事」+「お酒」の予定も多くなってくる時期ではないでしょうか?この本は、本とお酒が大好きな文芸編集者「都さん」の日常を描いたお話です。
 日々、仕事に奮闘する都さん。作家や本との出会いのなかで成長していきます。色々な本・小説にまつわるエピソードや人間模様が書かれていて、本好きにもたまらない1冊です。

 一方で、お酒が入ってしまうと、仕事での関係や立場を忘れ、とんでもない行動をしてしまうこともしばしばな「都さん」。武勇伝も失敗談もケタはずれにすごい。そんな都さんの周りをとりまく人々もなかなかのお酒好き。お酒の席だからこそ、立場を忘れて?腹を割って普段できない話ができ、関係が深まり、「都さん」の成長にもつながっていきます。
 仕事や人間関係で悩んで・踏ん張っている「都さん」だからこそ、周りには人が集まり、(たまにほろ苦いけれど)おいしく楽しいお酒が、飲めるのだろうなと思う私でした。

 今日も、おいしい一杯のために仕事がんばろうと思える小説です。そして、私も「都さん」のような飲み友だちがほしい!

あったかい縁側で読みたい本です

 『図書館の神様』 瀬尾まいこ/著 マガジンハウス (市立・書庫 913.6/セオ/04)

 この本はとっても読みやすいので、高校生でも楽しめます。主人公は2人です。高校の先生のキヨと、生徒の垣内君。あわよくば文芸部顧問をサボりたいキヨと、文学を愛する真面目すぎる垣内君の正反対な2人の会話は読んでいてクスリと笑ってしまい、思わず突っ込みたくなってしまいます。

 キヨは過去のあることがきっかけで大きな挫折を味わい、そのまま成長し、なりたくもない先生をしています。おまけにドロドロな不倫をしています。でもそれで幸せなのだと思い込んでいます。
 しかし垣内君とかかわっていくうちに、次第に考え方が変わっていき…。どん底から、少しずつ浄化され、キヨが立ち直っていく様子は、読んでいて本当にエールを送ってしまいましたし、垣内君の眩しすぎるくらいの純粋な言葉ひとつひとつにドキドキしてしまいました。

 「僕は毎日文学している。クラブ以外でも。いつでも何かに触れて何かを感じてる。」
 大人になって鈍感になってしまっていた私にとっては衝撃でした。私は毎日仕事でたくさんの本に囲まれているのに、読まなければいけない本だけしか目を通していない時期がありました。そんな中この本は、~文学が好きだから図書館で働いている~という原点を思い出させてくれました。

 この本の結末は涙が出るほど爽やかです。
 ちょうどこれから春になる、新しい芽が出てすべてはこれからだ、という今の時期にぴったりの本です。

旅ノートのすすめ

 『50歳からのおしゃれ旅スタイル』 中山庸子/著 海竜社 (市立・成人 290.9/ /15) 
   『旅ノート・散歩ノートのつくりかた』   奥野宣之/著 ダイヤモンド社 (市立・成人 290.9/ /13)
  『誰にでも書ける!k.m.pのイラスト旅ノート』  k.m.p./著 JTBパブリッシング(市立・成人 290.9/ /16)

 私は一年に何度か旅をします。友人や家族と一緒だったり、時には一人だったりします。泊りがけの旅行から日帰りバスツアー、ちょっとしたドライブや散歩程度のお出かけ。すべてを旅と呼んで楽しむと見る景色も変わってきます。しかし残念な事に、私は、行った場所、見たものを記憶に留めて整理するのがとても苦手です。

 そんな時出会ったのが、『50歳からのおしゃれ旅スタイル』です。この本には旅の楽しみ方のヒントがたくさんちりばめられています。その中で一番目に留まったのが、「旅ノート」のページでした。旅の準備メモから、行った場所、見たもの、感じたこと、食べたものなどなんでも自由に書き込んでいきます。私もさっそくA5サイズのノートを買い、旅ノートを作りました。ほとんど簡単なメモ程度ですが、時にはチケットを貼ったり、色鉛筆でイラストを描いたりして楽しんでいます。後で読み返すのも旅の続きのようで楽しい時間になります。

 そして簡単な旅ノートでは物足りないと言う方へお勧めなのが『旅ノート・散歩ノートのつくりかた』と『イラスト旅ノート』です。この2冊には旅の資料を作ったり、記録を整理するアイデアがぎっしり詰まっています。楽しみながらガイドブックに負けないオリジナルな旅の本ができそうです。

 旅好きなあなた、ぜひ、旅ノートを素敵な旅のお供にしてみてはいかがでしょうか。

パンダ愛

    『読むパンダ』   黒柳徹子/選 日本ペンクラブ/編 白水社 (市立・成人 489.5/ /18)

 昨年6月、上野動物園に待ちに待った赤ちゃんパンダのシャンシャンが生まれ、大きな話題となりました。12月にはシャンシャンの一般公開も始まり、好奇心旺盛で可愛い様子を見ると、私もすっかり魅せられています。皆さんの中にもパンダが大好きという人もいらっしゃるのではないでしょうか?

 この本は、浅田次郎を始めとした各界著名人たちによるパンダ愛にあふれるエッセイ集です。パンダが見たいがために密かに計画をたてる作家さんの話や、誰もが知っている有名パンダ作品誕生秘話まで22作のエッセイが楽しめます。

 初めて日本でパンダを受け入れてから昨年で45年になるそうですが、歴代の飼育員さんたちによるエッセイでは、謎だらけのパンダの飼育に試行錯誤する日々、そして、毎日接しているからこそ知ることができる パンダの生態や子育てについても語られています。もちろん、シャンシャンとお母さんのシンシンのことも!

 まだまだ謎の多いまさに珍獣パンダですが、この本を読むとますますとりこになってしまいそうです。私も上野動物園までシャンシャンを見に行きたくなってしまいました!


上質の歴史ミステリー

 「修道士カドフェル・シリーズ」 全21巻(短篇集含む) エリス・ピーターズ/著 社会思想社                                                                                                    (市立・書庫 B933/ヒタ/01)

 舞台は12世紀イングランド。王と女帝が相争い、国は内乱状態。そんな世相を背景に、初老の修道士カドフェルが、毎度起こる事件の解決に挑むという物語です。

 見どころはまず、中世ヨーロッパという時代背景に起因する“新しさ”でしょうか。現代社会ではまず遭遇しないであろう状況・考えつかない解決法が、作中には度々登場します。しかしそれは読者が「理解できない」と遠ざかってしまうようなものではなく、むしろ歴史ミステリーならではの目新しさ、意外性となって、読者を惹きつける役割を果たしています。

 次に、いわゆる“名探偵とパートナー”に当たる2人の関係です。少し乱暴な括り方をしてしまいますが、名探偵とパートナーというと、名探偵の天才性・特殊性にばかり重点が置かれて、パートナーはかすみがち、もしくは引き立て役、というイメージがあるのではないでしょうか。
 しかし、この作品の2人に関しては、そのような印象を受ける読者は皆無と言ってよいでしょう。主人公のカドフェルは、豊かな人生経験に基づく判断力と洞察力、そして持ち前の行動力で、事件の真相に忍耐強く迫ってゆく紛れもない名探偵です。そして彼のパートナーたる人物(物語の都合上、名前はここでは明かしません)もまた、主人公とは違う、己の持てる力でもって事件に切り込んでいく、言わばもう一人の名探偵なのです。もちろん主人公はカドフェルなので、この人物は“最高に頼りになる協力者”という描かれ方ですが。2人は年齢も身分も、生きる世界も大きく隔たっています。しかし、お互いを認め合い、足りない部分を補い合える、限りなく対等な無二の親友でもあるのです。

 「歴史ものは難しい」、「キリスト教はよくわからない」という方、ご心配なく。歴史や宗教の知識なんてほとんど必要ありません。知らない単語が出てきても、「ははあ、こういうものがあるんだな」と思ってそのまま読み進めていけばいいのです。全く問題なく楽しめるでしょう。 

 ドイルやクリスティなどなら、かなり読んだという方や、軽すぎず重すぎず、しかし読みごたえのあるミステリーを読みたいという方には、特におすすめの作品です。

得する人,損する人 ~ 一度の人生,さあ,どう生きるか? ~

「すばらしい人に 出会いなさい。亡くなった人は,その人の“血や肉である 作品や書物”に出会いなさい。」…… 学生時代の恩師のことばです。
 さいわい 私たちのまち・四日市では、文化会館などで 講演会や舞台、演奏の場があり、多くの刺激・エネルギーを得ることができます。(*2月10日は,四日市ゆかりの直木賞候補作家・伊吹有喜さんの講演会もあります。《図書館主催》満員御礼!! )
 
  日ごろ、図書館をご利用の皆さんには、「人生航路の“羅針盤”」として、次の3冊をおすすめします。ぜひ身近な本で、“すばらしい人”に出会って、「得」をしてみてください。

 『戦場から女優へ』 サヘル・ローズ/著 文藝春秋 (779.9/ / 09)

 イラン・イラク戦争の空爆で村が全滅するも、たったひとり生き残り、孤児院へ。来日後、ホームレス、いじめなどの苦難を乗り越え、滝川クリステルさんのものまねをきっかけに、芸能界へ。現在は、NHK「探検バクモン」や ネプ&イモト「世界番付」などで活躍するイラン人タレントの壮絶な半生。

 『夢を食いつづけた男』 植木 等・北畠 清泰/著 朝日新聞社 (市立・書庫 914.6/ウエ/84)

  あの植木等のお父さん、植木徹誠(てつじょう)の一代記。 御木本真珠店の貴金属職人、クリスチャン、僧侶など多彩な経歴。戦時中、「戦争は集団殺人だ」と特高に浴びせ、検束・拷問。さらには、部落解放運動を展開するなど、常人では歩めない人生を歩んだ人。

 『おくりびと』 百瀬しのぶ/著 小学館 (B913.6/モモ/08)

  映画化で、一躍 脚光を浴びた作品。スクリーンでは 美しい映像に魅了されるが、原作には、LGBT、過疎化、少子高齢化、孤独死など、現代社会が抱える問題も多く含まれている。今、私たちは、どう生きればいいのか、さまざまな示唆に富んでいる。

昭和の宰相・田中角栄を偲んで


 
2018年は、田中角栄元首相の生誕100年・没後25年の節目の年にあたる。そこで、田中角栄にまつわる本の中から、選りすぐりの3冊を紹介したいと思う。

 『父と私 』  田中眞紀子/著 日刊工業新聞社  (市立・成人/289/タナ/17)

 娘から見た、政治家・田中角榮とは?駆け出しの議員時代から死に至るまでの47年間に渡って、深い絆で結ばれてきた父と娘。脳梗塞で倒れた父に代わっての衆議院への立候補、外相や文部科学相などを歴任した議員時代…。娘・田中眞紀子が、歴史的証言者として、客観的かつ冷静に、今初めて明らかにする、父・田中角栄の実像!
 娘の結婚式でのスピーチ、中国要人との信頼関係、ロッキード事件への率直な疑問、父が病に倒れた後の姑息な政治劇…。 終生、人を愛し、家族を愛し、国を愛して飽くことのなかった田中角栄の知性と魅力を、ユーモアを交えて明かす。

  『天才』 石原慎太郎/著 幻冬舎  (市立・成人/913.6/イシ/16)

 日本列島改造論を引っ提げて、総理大臣に就任。数字に強い、駆け引きが上手い、義理人情を欠かさない。それが高等小学校出の男がのし上がる武器だった!
 庶民宰相・今太閤と国民に持てはやされて、 比類なき決断力と実行力で、激動の戦後日本の政治を牽引したが、金権体質を糾弾され、総理を辞任。その後も、長らく闇将軍・キングメーカーとして政界に君臨した田中角栄とは、いかなる人物であったか?
 政治家として田中角栄と相まみえた著者が、浪花節と映画をこよなく愛する、家族思いの人情家だった田中角栄の汗と涙に彩られた生涯を、モノローグで描く。
 アメリカ傘下のメジャーに依存しない独自の資源外交を展開した田中角栄と、それを苦々しく思うアメリカとの壮絶な駆け引きの裏には何があったのか?日本の司法を歪めた欺瞞と虚構、それに荷担した当時の三木総理や司法関係者たち…。国会議員の中で唯一の外国人記者クラブのメンバーだった著者が、ロッキード事件の真相にも迫る! 

 『田中角栄100の言葉 日本人に贈る人生と仕事の心得』
 別冊宝島編集部/編 宝島社 (市立・成人/289/タナ/16)

 「人生における勝機は一度か二度しかない」「出来損ないの人間そのままを愛せ」「おカネは、返ってこなくてもよいという気持ちで貸す」「やれ!責任はワシが取る!」…。
 読むだけで元気が出る!「新しい自分」に変わる!
 人の心をつかみ、人を動かした田中角栄の言葉は、時代を超えて多くの人間を魅了し続けた。ひとに「やる気」を引き出す天才・田中角栄の心に残る言葉を紹介。

子どもの頃に見た映画から

 『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』 森鴎外/著 角川書店 (市立・成人 B913.6/モリ/12)
 
 「山椒大夫」・・・上記短編集より 
 小学生の時にふと手にした本。「山椒大夫」という言葉の不気味さから、ストーリーは、きっと恐ろしいものなのだろうと感じました。実際の物語は、「安寿と厨子王(あんじゅとずしおう)」といえばご存じの方も多いのではないでしょうか。子ども向けにアレンジした同名のアニメ映画もありました。

 平安時代。物語は、安寿と厨子王が、母親とともに、九州へ赴任した父親のもとへ向かうところから始まる。その途中、子どもたちは人買いにさらわれ、母親と引き離されてしまう。幼い姉弟が売られた先の主として君臨する長者が「山椒大夫」であった。
 一家離散の末、かわいそうな姉弟は奴隷として耐え忍んで生活するが、絶望の中、悲劇が訪れる。映画では、安寿が鳥となり飛び立った。
 一方、山椒大夫のもとから脱出に成功した厨子王は、あるきっかけから藤原氏の庇護を受ける。成人した厨子王は国司となり、山椒大夫に対して人買いの禁止・奴隷の解放を指示する。その後、感動のクライマックスを迎える。

 森鴎外は、伝説の小説化にあたり、伝説にある多くの残酷な部分を避け執筆しました。
 30年ぶりに手にとって読み返してみれば、物語の途中の「絵」を見せる描写のほか、安寿の人物像が「最後の一句」の主人公「いち」との共通点を感じさせる(平安時代と江戸時代、武家と商家の違いはありますが)など、多くの新しい発見がありました。
 このほか、賛否両論ありましょうが、古来、日本社会で尊ばれている「日本の美」とされているものがテーマとなっているように思われます。 

  この本には、「高瀬舟」、「阿部一族」なども収められており、どなたでも短編の純文学を楽しむことができる一冊となっています。

博物館、ぐるぐるしてみませんか?

 『ぐるぐる♡博物館』  三浦 しをん/著 実業之日本社 (市立・成人 069.0/ /17)

 皆さんは“博物館”と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?小難しい説明のついた展示品が並んでいて、部屋の隅に学芸員さんがいて…。なんとなく、敷居が高いと感じている人もいるかもしれません。
 そんなあなたに読んでいただきたいのが、この『ぐるぐる博物館』。作家の三浦しをんさんが全国各地の博物館を実際に訪れ、展示品を見て、学芸員さんに取材をして書いたルポエッセイ集です。

 東京都の国立科学博物館や京都府の龍谷ミュージアムといった、比較的有名な博物館に関するエッセイも収録されているのですが、福井県のめがねミュージアムや大阪府のボタンの博物館といった、少し変わった博物館も掲載されています。

 三浦しをんさんと、個性豊かな学芸員さんたちのユーモアあふれるやり取りも必見。

 次の休日どこに行こう?と悩んでいるあなた。お出かけ先の候補の一つに、博物館はいかがですか?

『市川崑のタイポグラフィ』

『市川崑のタイポグラフィ 「犬神家の一族」の明朝体研究』 小谷 充/著 水曜社 (市立・成人 727.8/ /10)

 市川崑監督の「犬神家の一族」と聞くと、頭の中をあのメロディが流れ、印象に残る場面の数々が思い浮かぶとともに、画面に映し出される明朝体文字のことを思い起こす人も多いのではないでしょうか。

 この本は書名にあるとおり、市川崑作品における文字表現について、「犬神家の一族」を中心に読み解いていこうというものです。

 専門的な内容に身構えてしまいそうになるかもしれませんが、大丈夫。序章で明朝体の歴史が解説されているほか、各所説明も丁寧に書き進められているので、映画あるいは文字に少しの興味があれば、興味津々読み進められることと思います。
 映画や文字を楽しむ視点がまた一つ増えるかもしれません。

 余談ですがこの本は、印字された「しんにょう」に時折見慣れぬ点を見ることがあり(例:逢、迄、遡)それが心に引っ掛かるという方にもおススメです。 →P.57の前後
 なお、この件では他に『異体字の世界』 (小池和夫/著  河出書房新社 市立・書庫B811.2/ /07)もご案内します。

やり残したことがあるから…

    『青空のむこう』   アレックス・シアラー/著、金原瑞人/訳 求竜堂 (市立・書庫/933/シア/02)

 青い空と白い雲。その上を走る少年。とても明るい印象を受ける表紙です。
この本と出会ったのは12歳の時、小学校の卒業式の日でした。担任の先生に頂いて、家に帰るなり夢中になって読んだように思います。

 物語は、主人公の少年ハリーの一人称で語られます。ハリーはある日突然事故に遭い死んでしまいます。人は死んだらどうなるのだろう、誰もが一度は考える問題かもしれません。この物語では、ハリーが体験する「死者の国」と、死者の視点から見た「生者の国」が、ユーモラスな登場人物とハリーの軽妙な語り口で展開します。

 ハリーは死者の国で出会ったアーサーに、大抵の人は手続きを終えたら「彼方の青い世界」へ行くと教えられます。しかし、やり残したことがある人は、「彼方の青い世界」へは行けません。ハリーの心には、最後に姉に言った言葉が引っかかっていました。「ぼくが死んだら、きっと後悔するんだから。」 学校、教室、そして家族のいる家。やり残したことを片づけるために、姉に本当の思いを伝えるために、ハリーは生者の国へ飛び降ります。
 はたしてハリーは、やり残したことを片づけて、「彼方の青い世界」へ行けるのでしょうか。

 今でも節目の時などに読み返すたび、この本は、後悔しない生き方をしたいと思い立たせてくれます。

一日1ページ読んでみる。

『365日。』  渡辺 有子/著 主婦と生活社 (市立・成人 596/ /14)

 料理家・渡辺有子さんのこの本は、1日1日から12月31日までの365日が、写真とエッセイでつづられています。その日感じたことを短い文章でそっと語り、写真に写し出されるのは、その日作った料理だったり、ふと見上げた空の様子だったり、素敵な友人たちだったり。
本からは、旬の食べ物や、季節の花、毎日を大切に暮らしている様子がうかがえて、とてもうらやましくなります。

 ひどく落ち込んで辛かった時、この本を枕元に置き、日めくりカレンダーのように毎朝開いていたことがあります。どんなに辛くても一日一日を大切に頑張ろうと勇気づけられ、毎日ページをめくるのが楽しみになっていきました。

 本は、図書館の「料理」の棚にありますが、レシピはほんの少しです。写真をながめるのもよし。詩のような文章を味わうのもよし。
一度に読むのもいいですが、私のように一日1ページと決めて本を開くのもおもしろいですよ。図書館で借りた本では、365日毎日開くことはできませんが、貸出期間内だけでもぜひ試してみてください。

 この他にも、毎日お菓子を紹介する『一日一菓』 木村宗慎/著 新潮社(市立・成人 791.7/ /14)や、
身近な草木を紹介する『花ごよみ365日』 雨宮ゆか/著 誠文堂(市立・成人 793/ /15)など、
一日1ページの本は色々あります。

将棋の子とは?

 『将棋の子』 大崎 善生/著 講談社 (市立・書庫 796/ /01)

 
最近、藤井聡太四段らの活躍もあり、将棋ブームがきているようですね。ルールがわからない私でも読める将棋本がないか探したところ、見つけましたこの一冊、『将棋の子』 。

 将棋のルールの本ではありません。この本は、プロを目指した元奨励会員のノンフィクションです。将棋雑誌の編集部に務めていた著者のもとに、ある元奨励会員の連絡先変更のメモが届いたところから、この物語は始まります。住所の変更先は、札幌のとある将棋センター。彼がその後どうしているのか、気になった作者は、札幌へ向かいます。

 小学生だった頃、著者は、たまたま通りかかった将棋会館と書かれた看板と“見学自由”の言葉につられて、将棋会館に入ります。将棋が楽しくて、大人たちの中に混じって将棋をさしていると、老人と有段者しか入れない和室に、わき目もふらず上り込む小学生の姿を見つけます。それが、著者と成田の出会いでした。

 その後、努力だけではどうにもならない事を悟った著者は、プロになるのではなく、将棋連盟に就職。そんな中、小さいころに強烈なインパクトを残した成田に久々に再開します。プロを目指した成田でしたが、天才と呼ばれた彼でさえ、プロになれないという現実。そして、その後の壮絶な悲しい人生。プロになれない奨励会員は、その後どうしているのか。成田だけでなく、他の元奨励会員についても記載されています。

 読んでいると悲しくなってしまいますが、最後にはあっと驚かされる話となっています。日本将棋連盟に所属し、将棋雑誌の編集長も務めるなど、将棋の世界を身近に見てきた著者だからこその作品となっています。

 こちらの本は書庫に所蔵されている本ですので、読んでみたいと思われた方はカウンターまでお尋ねください。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク~暗闇の中の対話~

 『まっくらな中での対話』
     
         茂木健一郎with ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 講談社 (市立・成人 B141.2 / /11)
  『みるということ‐暗闇の中の対話』    ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 小学館 (市立・成人 141.2/ /16)

 1988年にドイツで生まれた真っ暗闇のソーシャル・エンターテインメント施設 “ダイアログ・イン・ザ・ダーク” は、完全に光が遮断された空間の中へ入り、暗闇のエキスパートである視覚障害者のアテンドスタッフの サポートのもと、グループになって中を探索し、さまざまなことが体験できる施設です。この空間の中では、視覚障害者と晴眼者の立場が完全に逆転します。同じ施設が、東京にもあります。

 『まっくらな中での対話』の著者・茂木健一郎氏は、その著書の中で、1999年に日本ではじめて開催されたダイアログ・イン・ザ・ダークに参加したときの自身の体験を語っています。脳科学者である茂木氏の言葉は、未体験の私の心に強い好奇心を抱かせる興味深いものでした。

 『みるということ』では、親子や友人同士で実際にダイアログ・イン・ザ・ダークに参加した人たちの体験を知ることができます。体験する前と後では、それぞれの内面や関係性に少なからず何かしらの変化が訪れるようです。そして、その変化が好ましいものであるということにも、私はさらなる興味を掻き立てられました。

 目が見える人は、情報の80%を視覚から得ているといわれています。その情報源が閉ざされた空間の中、音に耳をすませて、ひとつひとつの触感を手や足で確かめ、匂いを嗅ぐ。暗闇の中では、容姿や肩書き、年齢などはすべて関係なくなります。ただの自分になって、自分の内側を感じる時間を持つことは、情報過多の今の時代にはもしかしたらとても必要なことなのかも知れません。

 ダイアログ・イン・ザ・ダーク。ずいぶんと前から機会を狙っていますが、まだ未体験。いつか自分が体験した後に、この体験談を改めて読んでみたいと思っています。


 

古から伝わる謎解きに挑戦

 『千年クイズ』 清水文子/著 リットーミュージック (市立・成人 807.9/ /14)


 今、私たちは、本やテレビ番組などさまざまな場面で、たくさんのクイズに触れることができます。さらに、 この『千年クイズ』を読めば、今とは一味違った昔のクイズにも挑戦できるのです。

 この本には、平安時代から昭和まで、古い時代のクイズが一問一答形式で紹介されています。クイズは多種多様で、絵を見て考える「絵解き謎」、文字を読んで考える「文字変換謎」、数字を計算して考える「数字謎」などがあります。その中から、自分のお気に入りの謎が見つかるかもしれません。

 昔の謎解きは難しいかも、と思った時でも安心。各クイズにはヒントがついています。クイズは、当時の時代背景や常識が元になっているので、謎解きをしながら、楽しく歴史を知ることもできます。

 私は、昔はこんなクイズがあったのかと驚き、頭をひねり、次のクイズは何かとワクワクし、つい時間を忘れて謎解きをしました。楽しみ方は人それぞれ。皆さんも古の様々な「謎」にぜひ、挑戦してみてください。

スケオタの世界

 『スケオタデイズ』 (市立・成人784.6/ /15) グレゴリ青山/著  KADOKAWA 
 『スケオタデイズ 飛び出せ!海外遠征編』 (市立・成人784.6/ /16) グレゴリ青山/著  KADOKAWA  

 スケオタとは何か?それはフィギュアスケートオタクの略。今回紹介するのは、スケオタの世界に足を踏み入れることになった漫画家・イラストレーターのグレゴリ青山さんの著書。スケートとの出会いから次第に夢中になっていく様子、観戦した数々の試合で起こるドラマやちょっとしたネタまで、面白いと同時に興味深いエピソードが満載です。また海外遠征編では、日本人選手だけでなく、海外選手も多く登場。選手に対する深い愛情が伝わってくるのも魅力の一つです。

 10数年ほど前、国際試合とアイスショーを生で数回観戦したことがあります。そのとき、テレビで見るのとは違った迫力や会場の雰囲気に圧倒されたことを思い出しました。フィギュアスケートブームの今は、もっとすごいのでしょうね。来年2月には、平昌オリンピックが開催されます。4年に一度の大舞台で、出場する選手たちがどのような演技を行うのか、観戦できるのを楽しみに待ちたいと思います。

 他にもフィギュアスケートに関する本は、多数あります。ぜひ、「784.6」の棚をご覧ください。

田村泰次郎の文学世界

 『肉体の門』 田村泰次郎/著 角川出版 (913.6/タム/郷土)

 四日市の郷土作家である「田村泰次郎」と聞いて連想することは、「肉体文学」という言葉や、風俗小説作家といった肩書きでしょうか。
 代表作である「肉体の門」は、戦後の日本の街娼を主人公としたものです。何度も映像化されたそれのパッケージやキャッチコピー、そしてその衝撃的なタイトル自体がどこか淫靡さや頽廃を感じられるもので、彼の作品には、そのようなイメージがついているように思われます。私が情報として知っていた田村泰次郎は、そのようなものでした。

 実際読んでみると、映像であったような淫靡さや、現代における風俗小説といった類とは、異なるように思えました。今回読んだ文庫には、「肉体の門」、「肉体の悪魔」、「刺青」、「春婦伝」の4作が集録されており、いずれも「肉体」を用いた表現をしているものの(それが肉体文学なのでしょうが)、戦中戦後の日本を生々しく描いた戦争文学であり、前述で述べたようなものでは決してないように感じられます。頽廃的な生々しさというよりは、内面のある種の健康さを表現しているようにも考えられました。

 先行するイメージにとらわれず、一度、田村泰次郎の作品に触れてみるのはいかがでしょうか。自分なりの解釈や感想が生まれると思いますよ。


 また、田村泰次郎に関する研究の本も出版されています。

・『丹羽文雄と田村泰次郎』(910.26/タム/郷土)
・『田村泰次郎の戦争文学』(910.26/タム/郷土)

 一読後、文学者の見解、田村泰次郎の為人を含め、作家について知るのもおもしろいのではないでしょうか。

 ここで紹介した本は、いずれも本館の2階郷土作家コーナーで借りられますので、是非、読んでみて下さい。