図書館スタッフおすすめ本
闘病の日常
『くもをさがす』 西 加奈子/著 河出書房新社 (市立・成人 916//ニシ//23)
2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品です。
いつか訪れるかもしれない闘病に関して、そのリアルや心情がとても参考になりました。
2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品です。
腋窩リンパ節転移を伴う右乳がんと診断された作者が、その告知の日から、術前化学療法を経て、がんサバイバーとなっていく日々を綴っています。ただでさえ大変な乳がんの手術をたまたま短期で住んでいたカナダですることになり、言葉も十分には伝わらない上に医療システムの違いや更にコロナ禍まで重なりとても大変だったと思いますが、常に前向きで、周りには助けてくれる素敵な仲間が沢山いて西さんはとても幸せながんサバイバーです。
穏やかで温かく、思わず笑ってしまうような読後感。
きっとここには書けないような、書き切れないことがもっとたくさんあったのだと思いますが、
会話の部分が「関西弁」で描かれていて、それが読んでいて随分と軽くしてくれましたし、救いになった気がします。
生と死、心と体を冷静に俯瞰する知性。
選び抜かれた言葉を読める幸せがあります。
いつか訪れるかもしれない闘病に関して、そのリアルや心情がとても参考になりました。
たくさんの大切な事が書かれている。
この本はきっと、多くの人の光になると思います。
何度でも読み返したくなる そんな一冊です。
時にはのんびりした時間を
『メメンとモリ』 ヨシタケ シンスケ/著 株式会社KADOKAWA (市立・成人 726.6//23)
考えなくたって当たり前のように過ごせるから気づくときはいつも思いもよらないとき。
誰かの人生を通して気づくこともある。
『メメンとモリ』は人生について感じたことを素直に疑問にもつモリと肩の力が抜けるようでいて的を得た答えをするメメンの日常が描かれています。
短い言葉と表情豊かな絵で読みやすいです。
読み終わった後、背筋と腕を伸ばしゆっくり深呼吸してのんびりした時間が訪れます。
でもすぐ日常生活の忙しさ時間に戻ると思います。そしたらまた読んで下さい。
それを何回か繰り返していくうちにのんびりする時間も忙しい時間も愛おしく思えてきます。
推し活に迷いが生じたときに。
『##NAME##』 児玉 雨子/著 河出書房新社 (市立・成人 913.6//コタ//23)
第170回芥川賞が先日発表されました。
第170回芥川賞が先日発表されました。
芥川賞候補作は発表時点では雑誌掲載の作品がほとんどを占めるので、受賞作以外は手に取ったことがない方も多いかもしれません。
そこで前回の芥川賞候補作から単行本を1冊、ご紹介したいと思います。児玉雨子『##NAME##』です。
小説家としての児玉雨子の認知度は、まだあまり高くないかもしれません。
しかし、ハロー!プロジェクトを筆頭とした女性アイドル界隈では、素敵な詩を書かれる作詞家としてよく知られた存在です。
その中でも、私が心を射抜かれた児玉雨子曲は2曲。
Juice=Juice「25歳永遠説」とモーニング娘。'21「ビートの惑星」です。
「25歳永遠説」は「地元の子ママになった あの子は転職中 うれしくて はーぁ せつないな ちょっと誘いづらい」から始まります。女性アイドル曲とは思えない程、リアルな25歳女子の心境です。
25歳が定年と揶揄されることもある女性アイドルが「25歳永遠説 何でもできそう」と歌い上げ、「どんな時もなんとかなった なんとかして来られたじゃん」「昨日 今日 明日もそう明後日も うまくいくよ わたしなら」と言ってくれる。アイドルも私たちと同じような悩みがある女の子で、25歳を過ぎても彼女たちと一緒に歩いて行けば怖いものなんかない、と思わせてくれる一曲です。
しっとりと歌い上げる「25歳永遠説」に対して、「ビートの惑星」はライブでも盛り上がるポップなナンバーです。
「老若男女 いや! どれでもないな オリジナルのyou」と私たちに呼びかけ、「月火水木金曜 土日祝も 謳歌しようか」と日々の疲れを吹き飛ばすように盛り上げます。
そして「ねぇ うちらどうしたい?」と私たちに問いかけ、「歌おうか 君がアガる歌」と寄り添い、「銀河 沸かせよう」と一緒に駆け出してくれる、アイドルの神髄が詰まった一曲です。
アイドルとファンへの高い理解度と共感できる繊細な繊細な言葉選び、このふたつを併せ持った児玉雨子がジュニアアイドルをテーマに書いた小説が『##NAME##』です。
かつてのジュニアアイドルで、今は漫画好きの女子大生である主人公・雪那。
ジュニアアイドル時代と女子大生時代が並行して進む本作では、推される側と推す側、三次元と二次元の狭間で揺れる彼女の想いが、丁寧な描写でくっきりと浮かび上がってきます。
どちらも推したことのある人は、特に感情を乱されるかもしれません。
そして何よりも秀逸なのはタイトルの『##NAME##』。分かる人には分かる、あの文化です。
今流行りなんて言われる推し活ですが、うるさい外野の声にふと迷う時もありますよね。そんなときに読んでみませんか?
人名いろいろ
『氏名の誕生 江戸時代の名前はなぜ消えたのか』 尾脇 秀和/著 筑摩書房 (市立・成人 288.1//21)
この本は、江戸時代の「名前」とはどんなものであったか、現在につながる「氏名」がどのように誕生したのかを説き明かすため、江戸後期から明治初期にかけての人名のあり方を追ったものです。
この本は、江戸時代の「名前」とはどんなものであったか、現在につながる「氏名」がどのように誕生したのかを説き明かすため、江戸後期から明治初期にかけての人名のあり方を追ったものです。
当時、人名を構成する要素には[称号/苗字][官名/通称][姓(セイ)][尸][実名]があった。武家社会や一般世間が人名とするのは[苗字]+[通称]。しかし公家世界が人名と考えるのは[姓]+[実名]であった。
えっ御免なさい。今まで私そのようなこと全然知りませんでした。
他にも、兄が勘七郎で弟が助三郎であるなどは、特段珍しいことではないという話。越前守と呼ばれている人物が越前と関係なかったりする理由。[姓](藤原.源.菅原.平など)の後ろには「の」を挟んで読むことになっているなど、はぁー、へぇー、ほぉーと思わされる情報多々あり。
読み終えて思ったのは、なぜ私は今までこれらのことを知ろうとしなかったのかということ。もっと早くに知っていれば本を読むにも、ドラマ観るにも、調べものをする時も、きっとちょっと違っていただろうに。何かおもしろい気付きがあったかもしれない…と。
そんなわけでこの本を誰かに紹介したい!と考えました。
なお、当館には他に『苗字と名前を知る事典』(奥富敬之/著 東京堂出版)や『日本人の姓・苗字・名前』(大藤修/著 吉川弘文館)などの本があります。併せてお読みください。
百年前に何が起こったのか?朝鮮人虐殺事件の真相を探る!
①『証言集関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』 西崎雅夫/編 筑摩書房 (市立・成人 B210.6/18)
②『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』西崎雅夫/編著 現代書館 (市立・人権同和 /210.6/21)
今年2023年は、関東大震災から百年の節目にあたる。そこで、震災の直後に多発した朝鮮人虐殺事件についての証言集を紹介する。
1923年9月1日、関東大震災が発生。死者・不明者10万5千余人を出した巨大災害だった。その直後から、関東周辺の被災地には戒厳令が布かれ、大規模な軍隊が出動した。
「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が暴動を起こした」…。
その混乱の中で、流言蜚語・フェイクニュースはまたたく間に広まった。そして、軍隊・警察・自警団による朝鮮人への虐殺行為が始まる。被害は、中国人や、朝鮮人と疑われた日本人にも及んだ。その被害者は、6千人以上ともいわれている。自然災害が、人為的な殺傷行為を誘発した事件である。これほどの規模の事件は、日本の災害史上、他に例をみない。関東大震災は、その副産物として朝鮮人虐殺という忌まわしい禍根を残した。
なぜ、根拠のない風説が伝染し、現実の虐殺を生んでしまったのか?事件の体験者・目撃者から多くの聞き取りをしてきた著者の経験を元に、朝鮮人虐殺発生の深層に迫る。
戒厳令が布かれて、検閲が一層厳しかった時代。当時の政府は、虐殺事件を徹底的に隠蔽した。そのため、朝鮮人虐殺事件関連の公的史料はごくわずかだ。それでも残された公的史料から知り得ることは多い。百年前に起きた大震災の記憶を語れる人は、もう誰もいないだろう。しかし私たちには、日本人によって多くの朝鮮人が虐殺された歴史的事実を、後世に伝えていく使命がある。関連する公的史料が少ない以上、事件の真相に迫るには証言に頼るしかない。芥川龍之介、竹久夢二、折口信夫、和辻哲郎、志賀直哉、千田是也、黒澤明、田河水泡…。文化人・朝鮮人・市井の人々らの証言、子どもの作文から、当時の社会的背景や歴史的事実を学んで、明るい未来を切り開くための教訓にしてほしい。