図書館スタッフおすすめ本

人を愛するということについて

 『君の名前で僕を呼んで』 アンドレ・アシマン/著 オークラ出版 (市立・成人 B933/アシ/18)

 原題『Call Me By Your Name』を高岡香が訳した本書は、2018年4月に公開された映画「君の名前で僕を呼んで」の原作です。

 17歳の少年のひと夏のほろ苦く切ない恋を描いた作品で、主人公エリオの視点で書かれています。読者は、最後までエリオに感情移入しながら読み進めるのですが、ハッピーエンドを好んで他作品に触れてきた私にとっては、冒頭から切ないものでした。エリオの葛藤、不安、喜び…などの感情があふれるたびに、こちらも一喜一憂し、涙なしでは読めない部分もありました。

 このストーリーは、誰かに恋をし、愛する心には、性別も年齢も関係ないということをテーマにしているのだと思います。また、哲学的な部分があり、少し難しいですが、詩的でとてもすてきな作品だと思います。舞台は夏のイタリアです。読んだ後にはイタリアに行きたくなると思います。ぜひ読んでみてください。

“赤いひがんばな”と言えば?

 『新美南吉童話集』 角川春樹事務所 (市立・書庫 B913.6/ニイ/06)

 “赤いひがんばな”で思いつく物語といえば、「ごんぎつね」と答える人は多いでしょう。昭和・平成…と時代は変われども、教科書の定番はやっぱり 新美南吉。遠くに光るお城の屋根瓦、どこまでも青い空。兵十のおっかさんの白い葬列が,赤いひがんばなの中を通るシーンでは,鮮やかな色たちが目に浮かびます。

 若くして星になった南吉は、「ごんぎつね」のほかにもさまざまな作品を生みました。その中でも、「牛をつないだ椿の木」や「おじいさんのランプ」は、地味な作品ではありますが、今の時代でも何か 通じるものがあるように思います。

 椿の木かげに井戸の清水は今もこんこんと湧き、道に疲れた人々はのどをうるおし、また 道を進んで行くのであります。~「わしはもう,思い残すことはないがや。こんな小さな仕事だが,人のためになることを残すことができたからのォ」…… ロシアとのいくさに行く,「牛をつないだ椿の木」の海蔵さんの最後のことばです。

 「日本がすすんで、自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつをすてるのだ。いつまでも きたなく古い商売にかじりついていたり、自分の商売が はやっていた昔の方がよかったと言ったり、世の中のすすんだことをうらんだり、そんな意気地のねぇことは決してしないということだ」…… 峠の半田池にランプをつるし、石を投げて次々に割る「おじいさんのランプ」の巳之助じいさんのつぶやき。

 二人のことばは、時を越えて生きる私たちの心に今も強く響いてきます。
 ”さて,あなたは…”と。

カンパニー

 『カンパニー』 伊吹 有喜/著 新潮社 (市立・成人 913.6/イフ/17) 
 
 主人公の青柳誠一は、40代後半。製薬会社の総務に25年間務めてきた。与えられた仕事をソツなくこなすだけの青柳は、取り換えのきく人材と評価されリストラ候補に。そして、社長とは縁が深いバレエ団に出向を命じられてしまう。会社に戻るために青柳に残された道は、社名変更キャンペーンイベントの最後を飾るバレエ公演を成功させることなのだが、チケットが売れなかったり、公演の主役であるダンサーが突然居なくなったりと開幕すら危うい状況に。果たして公演は無事開幕するのか。

 会社やバレエ団の思惑、ダンサーが現役であり続ける理由など、表舞台では想像しにくい裏側が描かれている本書。まるで裏側を覗き見ているようで、ワクワクしながら読みました。表舞台の華やかさとは裏腹に、喜びや苦悩があるのだと知りました。

 また、登場人物たちが自分と向き合っていく姿が魅力的。主人公青柳も違う環境に生きる人たちと触れ合うことで、自分の居場所と必要性について疑問を膨らませていく。青柳が出した答えも考えさせられました。人物の動きや心情が事細かくていねいに描かれているので想像しやすく、バレエを知らない私でも、ついつい小説の世界に引き込まれてしまうような1冊です。

手塚治虫からの伝言(メッセージ)

『手塚治虫からの伝言(メッセージ)命』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)人間の未来』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)平和への祈り』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)友情』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)ロボットと暮らす世界』

いずれも、手塚治虫/著 童心社 (市立・成人 726.1/テス/18)

 こんにちは。
マンガの神様・手塚治虫が、未来の人たちに遺して、伝えていきたかった、力強くて、おもしろくて、悲しくて、心にのこるもの…を感じることができる本をご紹介します。

 手塚治虫は、人類にとっての普遍的なテーマを数多くの作品に描き続けました。私たちは、「ジャングル大帝」、「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」などの作品をわくわくして見て育ちましたが、手塚治虫のマンガにでてくる未来は、明るいものばかりではありません。むしろ、未来の戦争や、人類の終末を描いたもののほうが多いくらいです。

 それは、手塚治虫が未来ある人たちに、「道をまちがえてしまうと、未来はこんな暗いものになるよ。気をつけなさい。」というメッセージを伝えようとしていたから。過去の人間の愚かなまちがいを繰り返さないでいいようにという思いからでした。

 アトムが描かれてから、半世紀以上が経ちましたが、そのテーマは今も私たちに問いかけてきます。目を見張るほど進歩し続けていくテクノロジーや、命の大切さ、、、どうぞ、それらを感じてください。 

本が先?映画が先?

 『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤/著 実業之日本社 (913.6/イケ/18)

 
自動車メーカーのリコール隠しに勇敢に立ち向かった人たちの物語。中小運送業社長が、巨悪に立ち向かう誠実な生き様にも胸がすくわれる作品です。また、いい車、安全な車を作ろうとするメーカー技術者が、欠陥を内部告発するまでの葛藤を刻銘に描いています。

 6月には映画も公開され、原作が息を吹き返しています。このところ、事実を隠したり、捏造したり、改ざんする事件が頻発しました。『白い巨塔』で山崎豊子が、医学界に警鐘をならしたように、今こそ信頼の回復と生命の尊厳を守るスタンスに立ち戻らないといけないのではないでしょうか。

 また、『空飛ぶタイヤ』は、文庫本、大活字本でも所蔵がありますので、こちらもご利用ください。

はじめてのパソコンのイラッをズバリ!解決

 『はじめてのパソコンのイラッをズバリ!解決』 秀和システム (市立・成人 007.6/ /16)

 みなさんはこの本のタイトルどおり、パソコンが思いどおりに動かなくて「イラッ」としたことはありませんか?

 この本は、初心者の方はもちろん、中級者の方にも参考にしていただける入門書だと思います。入門書らしく、パソコンが思いどおりに動かない時、「やってはいけないコト・コレ!が原因・コレ!で解決」と、3段階で対応方法が解りやすく解説されています。自分でも当たり前のように、「やってはいけないコト!」をやってしまっていた事に、正直驚きました。

 みなさんの「イラッ!」が少しでも解決できるよう、ぜひ、この本をご活用ください。

俳句文学への入り口に

 『怖い俳句』 倉阪 鬼一郎/著 幻冬舎 (市立・成人 911.30/ /12)

 この本は、江戸から現代までの俳人の句を“怖さ”という視点から選び出した作品集です。

 作品はおおよその時代ごとに配置され、各々に鑑賞文が添えられています。まえがきに「照明を落とした美術館の回廊を巡っていくように、一句ずつ怖い俳句が目の前に現れていきます。」とありますが、なるほど、そのような歩調で読み進めるのが合いそうです。

 紹介される“怖い俳句”に、不吉さを忍ばせた情景・日常の中にある異空間・不気味な時代の空気・目を背けられないほどの痛み・果てしないものへの恐れ・この世とあの世とのゆらめきを思ったり、よくは解らないが何だかすごいフレーズだと驚いたりしながら、私はこの俳句集を読みました。そして“怖さ”が、俳句の魅力に触れさせてくれるとてもよい視点であることを感じました。

 文中で著者は、「読者を俳句の世界にいざなう「初めの一冊」になればとひそかに思いつつ、本書を執筆している」と書いています。
 俳句文学への入り口に、さまざまな俳人たちを知るきっかけに、私もこの本をオススメします。

オルゴールから聴こえてくるのは…


 『ありえないほどうるさいオルゴール店』 瀧羽麻子/著 幻冬舎 (市立・成人913.6/タキ/18)

 蓋や引き出しを開けると、心地よくてやさしいメロディーが流れ出すオルゴール。音楽に合わせて人形が動いたり、しかけを楽しめるものもあって、ついつい見入ってしまいますよね。私は、子供の頃にオルゴールに魅せられて、チャンスがあればオルゴールを買ってもらい、集めて楽しんでいた時期があったのを思い出しました。

 この物語は、北の町にある静かなオルゴール店と、そこにまるで引き寄せられるように訪れたお客さんとの物語です。店内にはたくさんのオルゴールがありますが、耳利きの職人である店主が、お客さんの好きなメロディーをオーダーメイドで作ってもくれるのです。耳利き…とは、一体どういう意味なんでしょう?どうやら店主は、心の音楽を聴き取ることができるようです。

 訪れるお客さんもちょっと訳ありな方々です。耳が聞こえないと医者から告げられた少年と手術に迷う母親や、仲間と一緒に追いかけていた音楽の夢をあきらめた少女。どうしても分かり合えることのなかった父の法事のために、故郷に帰ってきた男性など。そんなお客さんたちが手にしたオルゴールからは、まるで魔法のように人生に寄り添い、背中をそっと押してくれるような、あっと驚くメロディーが流れ出てきます。
 

 読者も、まるでオルゴールから音楽が聴こえてくるかのように、やさしい気持ちになれるそんな物語です。オルゴールが好きな方、音楽が好きな方、ちょっとお疲れ気味の方、よかったら読んでみませんか?

ほめちぎられたい方へ

 『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』 加藤光一/著 KADOKAWA (市立・成人 336.4/ /18)

 三重県にほめちぎる自動車教習所があります。そこは2013年にリニューアルし、ほめる指導を始めました。

 みなさんは、自動車教習所といえばどのようなイメージでしょうか。わたしの場合は、無表情のおじさんが助手席に座り、少しでも間違うようなら、思い切りブレーキを踏まれる(公道ではなく、まだコース内の段階においてです)。そして、評価には濃い鉛筆でバツ。座学の際には、一つでも聞き逃すと、本試験はおろか仮免試験にも受からないと脅されました。そんなイメージです。そして試験に落ちると、余計に追加料金がかかるシステムだったので、貧乏学生のわたしは、夏休みの間少々追い詰められながら、なんとか合格しました。

 なのでほめられた記憶は一度もありません。むしろ運転は苦手、というイメージがついてしまったので免許を取得してから10年目ですが一度も運転していません。運転しなくても電車でなんとかなる生活圏だったのですが、最近引っ越しをして不便になってしまいました。これを機会にペーパードライバーを卒業したいと思っています。

 運転においてもそうでなくても、ほめちぎられたいと思うわたしにとって、ここはぴったりな教習所かもしれません。ちなみに、この本の巻末には、ほめちぎる教習所がイチオシするほめ方10選が載っています。こちらは日常の中でも使えるものばかりなので、活用しようと思っています。

世界は奇跡に満ちている

 「バチカン奇跡調査官(シリーズ)」 藤木 稟/著 角川書店 (市立・成人 913.6/フシ/07~)
 
 カソリックの総本山・バチカン。ここではこの現代においても、“奇跡”の認定が行われています。「バチカン奇跡調査官」とは、この奇跡認定を求めて世界中から申請されて来る不可思議現象について、これをあらゆる角度から調査し、真に神の奇跡と認めてよいか否かを検証する任務を帯びた聖職者たちです。(注:この役職は作者のフィクションです。ただし、バチカンが奇跡認定を行っているのは本当です。)

 主役は、神父として、そして奇跡調査官としてバチカンに奉職する二人の青年。この二人がコンビとなって、毎回、申請のあった奇跡の現場へ赴き、協力しながら調査に当たるわけですが、そこにはその土地の歴史や民俗、宗教、様々な人間の思惑が絡み合って一筋縄ではいきません。果ては古い秘密結社やナチスの末裔なども暗躍し、命の危険にさらされることもしばしばです。果たして二人は、奇跡の真相に辿り着くことができるのか・・・というのが物語の大筋です。

 奇跡調査官は皆、何某かの分野のエキスパートで、主役の二人・平賀神父とロベルト神父もそれぞれ、医学・科学捜査の、あるいは暗号解読・民俗学の専門家です。この二人の奇跡調査を通じて、奇跡の起こったカラクリ(これが明らかにされるということは、すなわち真の奇跡ではないということなのですが(笑))のみならず、現地の現在の事情からそこに至るまでの歴史・民俗などが詳しく語られ、結果的にとても包括的で豊かな内容のミステリーになっています。

 また、二人の神父の世界に対する目が限りなく対等で誠実なためか、事件や過去の歴史事実など凄惨な描写が多いにも関わらず、作品全体に不思議な肯定感、優しさがあり、人は過ちも多く犯すけれど、希望がないわけではないなと感じさせてくれます。

 興味のある方はぜひご一読を。