図書館スタッフおすすめ本
今年はどんな野菜に挑戦しようか
『西村和雄ぐうたら農法』 西村和雄/監修 学研プラス (市立・成人 626.9/ /18)
私は、ほんの少しだけですが庭で野菜を作っています。野菜作り初心者なので、うまく作れる時もあれば、失敗する時もあります。
野菜作りの一番の目的は、何と言っても自分で作ったものを食べる楽しみです。しかし、その他にも、野菜の葉に何かが食べたような穴があると、一体どんな虫が食べたのだろうか、せっかく作っている野菜を害虫から防ぐにはどうしたらいいのかなどの疑問や対処、また、これまでは特に気にしなかった虫が、害虫から野菜を守ってくれていることなどに気付くことも楽しいことです。
今回紹介する本は、本のタイトルからしても、気負わずに野菜作りを初めてみようかなと思わせてくれるような本です。私も今年は、今まで作ったことのない野菜を作ってみたいと思っています。図書館にはたくさんの野菜作りの本があります。ぜひ一度ご覧いただき、野菜作りを楽しんでみませんか。
三重郷土 名士の為人(ひととなり)に触れる
『泗水百人物の横顔』 伊藤 長次郎(丸山 半月)/著 三重日日新聞社 (市立・地域 L28/ /35)
聞いたこともないタイトル、著者、出版社の本であると思います。それもそのはず。この本は、昭和10年に発行された本なのです。三重日日新聞(明治12年創刊)に連載されていた「名士プロフィール」を改題上梓した本です。もちろん、当時の名士たちということなので、今となっては教科書に掲載されたり、郷土史などで語られたりする方々ばかり。伊藤傳七、伊藤平治郎、九鬼紋七、小菅剣之助…などなどの実業家たちが名を連ねています。
そんな彼らはどんな人だったか…。他の本で語られるような偉業の記述ではなく、どんな趣味を持っているか、こんな性格だったのか、お酒はどれぐらい飲むのだとか…少しばかりの親近感が湧くような、名士の為人を知ることが出来ます。また、戦前の発行物ということで、現代では使われない当時の言い回しや文章表現などを体感できると同時に、今ではなかなかできないような、ジャーナリストのざっくばらんな表現も楽しめます。
この本を読み郷土史を見直したとき、少しだけ郷土の名士を近しく感じられるかもしれませんね。本は2階地域資料室でご覧いただけます。(貸出可)
読者への挑戦状
『叙述トリック短編集』 似鳥 鶏(ニタドリ ケイ)/著 講談社 (市立・成人 913.6/ニタ/18)
この本によると、「叙述トリック」とは、小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリックです。読者をミスリードし、最後に勘違いを突き付けられ、「やられた!騙された!!」と悔しい思いをするものの、この衝撃がクセになってしまい、虜になった一人が私です。
この作品はタイトルの通り、叙述トリックを使用した推理小説の短編集です。他の叙述トリックを用いた作品と違うのは、タイトルと冒頭で、叙述トリックを用いているとあらかじめ記述し、読者へ挑戦状を投げかけているところです。
はじめ私は、「叙述トリックを使っていると始めから知っていたら、面白みがないのでは」と考えていました。しかし、タイトルに使っている程、読者をミスリードする自信があるのかと考えると、気になる存在になってしまい、読んでみると、おすすめしたい一冊となりました。ちなみに私は、叙述トリックを使っていると知っていて注意して読んだつもりでした。でも、見抜けたトリックが1つ、何となくそうかな?と部分的に感じたトリックが2つでした。
最後に、作中の冒頭にも記述のあるヒントをひとつ。「一人だけ、すべての話に同じ人が登場している」…あなたも似鳥鶏のトリックに挑戦してみませんか。
お直しの本
『クライ・ムキのお直しの本』 クライ・ムキ/著 日本文芸社 (市立・成人 593.3/ /16)
かつて私が子育てしていた時に、クライ・ムキさん編集の雑誌『手作りママキディ』(婦人生活社)に出会いました。洋裁なんて習ったことのない私でしたが、実物大型紙と分かりやすい作り方手順に、パンツ、シャツ、ジャケット等、沢山の作品を作りました。
洋裁には、作る楽しみと着る楽しみ、両方があります。それを教えてくれたのがクライ・ムキさんでした。残念ながらこの雑誌は1998年に廃刊になっています。しかし、これに代わる簡単手作りの本はたくさん出版され、おかげで私の洋裁好きは今でも続いています。
今回紹介するのは、手作りの本とはちょっと違って、手軽にできるリフォームの本です。新しい洋服を作るのもとても楽しい作業なのですが、古いものを甦らせる作業も楽しいものです。この本は、いまさら誰にも聞けないような、糸の通し方や結び方等の基礎知識から、一見難しそうなサイズ直しや修理の方法まで、全てカラー写真で分かりやすく解説してあります。洋裁が苦手な人でも手順通りにやっていけば、案外簡単に
「お直し完了!」となりそうです。
サイズや形が合わなくなってしまった洋服や、まだ着たいのにほつれたり、裾が擦り切れてしまった洋服を、お直しでもう一度、お気に入りの一着にしてみてはいかがでしょうか。
〝本が売れない〟現実と〝本を売る〟ための悪あがきの物語
『拝啓、本が売れません』 額賀 澪 (ヌカガミオ)/著 KKベストセラーズ (市立・成人 023.1/ /18)
私は趣味では基本小説しか読まない人間です。しかしせっかく図書館で働く身だから、と普段は足を運ばない棚で本を探してみました。そのとき出会った本がこちら。ちなみに本を手に取った理由は表紙でした。
この本は、額賀澪という2015年に「松本清張賞」と「小学館文庫小説賞」をダブル受賞した作家が、≪本が売れない≫現実を思い知り、本を売るために何をしたらいいのかを関係者に問いながら発見していくノンフィクション小説です。
作中には編集者、書店員、装幀人など作家以外の本を売る側の人が登場します。本が売れるのは、作家にとって、とても大事なこと。そのために何をしたらいいのかを考え、聞き、行動に移す姿は、今や将来、本に関わる仕事をする人はもちろん、一読者としても興味深いものになるのではないでしょうか。売り方の一つに表紙の話もあり、この本を表紙借りした私はドキリとしました。まんまと策にはまってしまった……ということです。
私はこの作家の本を読んだことがありません。しかし、この一冊を通してこの作家の文章の読み易さを知り、人となりを覗き、売れる本を作り出そうとする仕掛けに、この作家の本を近いうちに読むことを決めました。新しい作家との出会いに成功したのです。ここでは、新たな出会いとなったこの本をおすすめしますが、いつも読まない棚から本を手に取ってみるのも、たまにはいいかもしれません。新しい出会いがあるかもしれませんよ。
“可哀そう”って決めつけないで
この作品は児童養護施設を舞台に、主人公の新任職員が施設の子供や職員と関わりながら成長していく様子を描いた物語です。児童養護施設が持つイメージから皆さんは、たぶん「可哀そうで不幸な話、重たいストーリー」ではと思われることと思います。実際、私も”可哀そうな物語”でつらい気持ちになって、最後まで読み終われるかなと不安になりながら読み始めたのですが、杞憂に終わりました。
著者の描き方が上手く、重くなりそうなテーマを軽やかに明るくまとめてあるため、あっという間に読み終わることが出来ました。普段、あまりよく知られていない「児童養護施設」の現状とかかえる問題を知ることが出来て、私たち大人が本当に子供たちにすべきことは何かを考えさせられました。
そして、物語を読み終えた後の子供の手紙を読んでください。この作品の本当の存在の意義がわかり、感動が一層深まることと思います。
人を愛するということについて
原題『Call Me By Your Name』を高岡香が訳した本書は、2018年4月に公開された映画「君の名前で僕を呼んで」の原作です。
17歳の少年のひと夏のほろ苦く切ない恋を描いた作品で、主人公エリオの視点で書かれています。読者は、最後までエリオに感情移入しながら読み進めるのですが、ハッピーエンドを好んで他作品に触れてきた私にとっては、冒頭から切ないものでした。エリオの葛藤、不安、喜び…などの感情があふれるたびに、こちらも一喜一憂し、涙なしでは読めない部分もありました。
このストーリーは、誰かに恋をし、愛する心には、性別も年齢も関係ないということをテーマにしているのだと思います。また、哲学的な部分があり、少し難しいですが、詩的でとてもすてきな作品だと思います。舞台は夏のイタリアです。読んだ後にはイタリアに行きたくなると思います。ぜひ読んでみてください。
“赤いひがんばな”と言えば?
“赤いひがんばな”で思いつく物語といえば、「ごんぎつね」と答える人は多いでしょう。昭和・平成…と時代は変われども、教科書の定番はやっぱり 新美南吉。遠くに光るお城の屋根瓦、どこまでも青い空。兵十のおっかさんの白い葬列が,赤いひがんばなの中を通るシーンでは,鮮やかな色たちが目に浮かびます。
若くして星になった南吉は、「ごんぎつね」のほかにもさまざまな作品を生みました。その中でも、「牛をつないだ椿の木」や「おじいさんのランプ」は、地味な作品ではありますが、今の時代でも何か 通じるものがあるように思います。
椿の木かげに井戸の清水は今もこんこんと湧き、道に疲れた人々はのどをうるおし、また 道を進んで行くのであります。~「わしはもう,思い残すことはないがや。こんな小さな仕事だが,人のためになることを残すことができたからのォ」…… ロシアとのいくさに行く,「牛をつないだ椿の木」の海蔵さんの最後のことばです。
「日本がすすんで、自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつをすてるのだ。いつまでも きたなく古い商売にかじりついていたり、自分の商売が はやっていた昔の方がよかったと言ったり、世の中のすすんだことをうらんだり、そんな意気地のねぇことは決してしないということだ」…… 峠の半田池にランプをつるし、石を投げて次々に割る「おじいさんのランプ」の巳之助じいさんのつぶやき。
二人のことばは、時を越えて生きる私たちの心に今も強く響いてきます。
カンパニー
『カンパニー』 伊吹 有喜/著 新潮社 (市立・成人 913.6/イフ/17)
主人公の青柳誠一は、40代後半。製薬会社の総務に25年間務めてきた。与えられた仕事をソツなくこなすだけの青柳は、取り換えのきく人材と評価されリストラ候補に。そして、社長とは縁が深いバレエ団に出向を命じられてしまう。会社に戻るために青柳に残された道は、社名変更キャンペーンイベントの最後を飾るバレエ公演を成功させることなのだが、チケットが売れなかったり、公演の主役であるダンサーが突然居なくなったりと開幕すら危うい状況に。果たして公演は無事開幕するのか。
会社やバレエ団の思惑、ダンサーが現役であり続ける理由など、表舞台では想像しにくい裏側が描かれている本書。まるで裏側を覗き見ているようで、ワクワクしながら読みました。表舞台の華やかさとは裏腹に、喜びや苦悩があるのだと知りました。
また、登場人物たちが自分と向き合っていく姿が魅力的。主人公青柳も違う環境に生きる人たちと触れ合うことで、自分の居場所と必要性について疑問を膨らませていく。青柳が出した答えも考えさせられました。人物の動きや心情が事細かくていねいに描かれているので想像しやすく、バレエを知らない私でも、ついつい小説の世界に引き込まれてしまうような1冊です。
手塚治虫からの伝言(メッセージ)
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)命』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)人間の未来』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)平和への祈り』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)友情』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)ロボットと暮らす世界』
いずれも、手塚治虫/著 童心社 (市立・成人 726.1/テス/18)
こんにちは。
マンガの神様・手塚治虫が、未来の人たちに遺して、伝えていきたかった、力強くて、おもしろくて、悲しくて、心にのこるもの…を感じることができる本をご紹介します。
手塚治虫は、人類にとっての普遍的なテーマを数多くの作品に描き続けました。私たちは、「ジャングル大帝」、「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」などの作品をわくわくして見て育ちましたが、手塚治虫のマンガにでてくる未来は、明るいものばかりではありません。むしろ、未来の戦争や、人類の終末を描いたもののほうが多いくらいです。
それは、手塚治虫が未来ある人たちに、「道をまちがえてしまうと、未来はこんな暗いものになるよ。気をつけなさい。」というメッセージを伝えようとしていたから。過去の人間の愚かなまちがいを繰り返さないでいいようにという思いからでした。
アトムが描かれてから、半世紀以上が経ちましたが、そのテーマは今も私たちに問いかけてきます。目を見張るほど進歩し続けていくテクノロジーや、命の大切さ、、、どうぞ、それらを感じてください。