図書館スタッフおすすめ本

子どもの頃に見た映画から

 『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』 森鴎外/著 角川書店 (市立・成人 B913.6/モリ/12)
 
 「山椒大夫」・・・上記短編集より 
 小学生の時にふと手にした本。「山椒大夫」という言葉の不気味さから、ストーリーは、きっと恐ろしいものなのだろうと感じました。実際の物語は、「安寿と厨子王(あんじゅとずしおう)」といえばご存じの方も多いのではないでしょうか。子ども向けにアレンジした同名のアニメ映画もありました。

 平安時代。物語は、安寿と厨子王が、母親とともに、九州へ赴任した父親のもとへ向かうところから始まる。その途中、子どもたちは人買いにさらわれ、母親と引き離されてしまう。幼い姉弟が売られた先の主として君臨する長者が「山椒大夫」であった。
 一家離散の末、かわいそうな姉弟は奴隷として耐え忍んで生活するが、絶望の中、悲劇が訪れる。映画では、安寿が鳥となり飛び立った。
 一方、山椒大夫のもとから脱出に成功した厨子王は、あるきっかけから藤原氏の庇護を受ける。成人した厨子王は国司となり、山椒大夫に対して人買いの禁止・奴隷の解放を指示する。その後、感動のクライマックスを迎える。

 森鴎外は、伝説の小説化にあたり、伝説にある多くの残酷な部分を避け執筆しました。
 30年ぶりに手にとって読み返してみれば、物語の途中の「絵」を見せる描写のほか、安寿の人物像が「最後の一句」の主人公「いち」との共通点を感じさせる(平安時代と江戸時代、武家と商家の違いはありますが)など、多くの新しい発見がありました。
 このほか、賛否両論ありましょうが、古来、日本社会で尊ばれている「日本の美」とされているものがテーマとなっているように思われます。 

  この本には、「高瀬舟」、「阿部一族」なども収められており、どなたでも短編の純文学を楽しむことができる一冊となっています。

博物館、ぐるぐるしてみませんか?

 『ぐるぐる♡博物館』  三浦 しをん/著 実業之日本社 (市立・成人 069.0/ /17)

 皆さんは“博物館”と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?小難しい説明のついた展示品が並んでいて、部屋の隅に学芸員さんがいて…。なんとなく、敷居が高いと感じている人もいるかもしれません。
 そんなあなたに読んでいただきたいのが、この『ぐるぐる博物館』。作家の三浦しをんさんが全国各地の博物館を実際に訪れ、展示品を見て、学芸員さんに取材をして書いたルポエッセイ集です。

 東京都の国立科学博物館や京都府の龍谷ミュージアムといった、比較的有名な博物館に関するエッセイも収録されているのですが、福井県のめがねミュージアムや大阪府のボタンの博物館といった、少し変わった博物館も掲載されています。

 三浦しをんさんと、個性豊かな学芸員さんたちのユーモアあふれるやり取りも必見。

 次の休日どこに行こう?と悩んでいるあなた。お出かけ先の候補の一つに、博物館はいかがですか?

『市川崑のタイポグラフィ』

『市川崑のタイポグラフィ 「犬神家の一族」の明朝体研究』 小谷 充/著 水曜社 (市立・成人 727.8/ /10)

 市川崑監督の「犬神家の一族」と聞くと、頭の中をあのメロディが流れ、印象に残る場面の数々が思い浮かぶとともに、画面に映し出される明朝体文字のことを思い起こす人も多いのではないでしょうか。

 この本は書名にあるとおり、市川崑作品における文字表現について、「犬神家の一族」を中心に読み解いていこうというものです。

 専門的な内容に身構えてしまいそうになるかもしれませんが、大丈夫。序章で明朝体の歴史が解説されているほか、各所説明も丁寧に書き進められているので、映画あるいは文字に少しの興味があれば、興味津々読み進められることと思います。
 映画や文字を楽しむ視点がまた一つ増えるかもしれません。

 余談ですがこの本は、印字された「しんにょう」に時折見慣れぬ点を見ることがあり(例:逢、迄、遡)それが心に引っ掛かるという方にもおススメです。 →P.57の前後
 なお、この件では他に『異体字の世界』 (小池和夫/著  河出書房新社 市立・書庫B811.2/ /07)もご案内します。

やり残したことがあるから…

    『青空のむこう』   アレックス・シアラー/著、金原瑞人/訳 求竜堂 (市立・書庫/933/シア/02)

 青い空と白い雲。その上を走る少年。とても明るい印象を受ける表紙です。
この本と出会ったのは12歳の時、小学校の卒業式の日でした。担任の先生に頂いて、家に帰るなり夢中になって読んだように思います。

 物語は、主人公の少年ハリーの一人称で語られます。ハリーはある日突然事故に遭い死んでしまいます。人は死んだらどうなるのだろう、誰もが一度は考える問題かもしれません。この物語では、ハリーが体験する「死者の国」と、死者の視点から見た「生者の国」が、ユーモラスな登場人物とハリーの軽妙な語り口で展開します。

 ハリーは死者の国で出会ったアーサーに、大抵の人は手続きを終えたら「彼方の青い世界」へ行くと教えられます。しかし、やり残したことがある人は、「彼方の青い世界」へは行けません。ハリーの心には、最後に姉に言った言葉が引っかかっていました。「ぼくが死んだら、きっと後悔するんだから。」 学校、教室、そして家族のいる家。やり残したことを片づけるために、姉に本当の思いを伝えるために、ハリーは生者の国へ飛び降ります。
 はたしてハリーは、やり残したことを片づけて、「彼方の青い世界」へ行けるのでしょうか。

 今でも節目の時などに読み返すたび、この本は、後悔しない生き方をしたいと思い立たせてくれます。

一日1ページ読んでみる。

『365日。』  渡辺 有子/著 主婦と生活社 (市立・成人 596/ /14)

 料理家・渡辺有子さんのこの本は、1日1日から12月31日までの365日が、写真とエッセイでつづられています。その日感じたことを短い文章でそっと語り、写真に写し出されるのは、その日作った料理だったり、ふと見上げた空の様子だったり、素敵な友人たちだったり。
本からは、旬の食べ物や、季節の花、毎日を大切に暮らしている様子がうかがえて、とてもうらやましくなります。

 ひどく落ち込んで辛かった時、この本を枕元に置き、日めくりカレンダーのように毎朝開いていたことがあります。どんなに辛くても一日一日を大切に頑張ろうと勇気づけられ、毎日ページをめくるのが楽しみになっていきました。

 本は、図書館の「料理」の棚にありますが、レシピはほんの少しです。写真をながめるのもよし。詩のような文章を味わうのもよし。
一度に読むのもいいですが、私のように一日1ページと決めて本を開くのもおもしろいですよ。図書館で借りた本では、365日毎日開くことはできませんが、貸出期間内だけでもぜひ試してみてください。

 この他にも、毎日お菓子を紹介する『一日一菓』 木村宗慎/著 新潮社(市立・成人 791.7/ /14)や、
身近な草木を紹介する『花ごよみ365日』 雨宮ゆか/著 誠文堂(市立・成人 793/ /15)など、
一日1ページの本は色々あります。

将棋の子とは?

 『将棋の子』 大崎 善生/著 講談社 (市立・書庫 796/ /01)

 
最近、藤井聡太四段らの活躍もあり、将棋ブームがきているようですね。ルールがわからない私でも読める将棋本がないか探したところ、見つけましたこの一冊、『将棋の子』 。

 将棋のルールの本ではありません。この本は、プロを目指した元奨励会員のノンフィクションです。将棋雑誌の編集部に務めていた著者のもとに、ある元奨励会員の連絡先変更のメモが届いたところから、この物語は始まります。住所の変更先は、札幌のとある将棋センター。彼がその後どうしているのか、気になった作者は、札幌へ向かいます。

 小学生だった頃、著者は、たまたま通りかかった将棋会館と書かれた看板と“見学自由”の言葉につられて、将棋会館に入ります。将棋が楽しくて、大人たちの中に混じって将棋をさしていると、老人と有段者しか入れない和室に、わき目もふらず上り込む小学生の姿を見つけます。それが、著者と成田の出会いでした。

 その後、努力だけではどうにもならない事を悟った著者は、プロになるのではなく、将棋連盟に就職。そんな中、小さいころに強烈なインパクトを残した成田に久々に再開します。プロを目指した成田でしたが、天才と呼ばれた彼でさえ、プロになれないという現実。そして、その後の壮絶な悲しい人生。プロになれない奨励会員は、その後どうしているのか。成田だけでなく、他の元奨励会員についても記載されています。

 読んでいると悲しくなってしまいますが、最後にはあっと驚かされる話となっています。日本将棋連盟に所属し、将棋雑誌の編集長も務めるなど、将棋の世界を身近に見てきた著者だからこその作品となっています。

 こちらの本は書庫に所蔵されている本ですので、読んでみたいと思われた方はカウンターまでお尋ねください。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク~暗闇の中の対話~

 『まっくらな中での対話』
     
         茂木健一郎with ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 講談社 (市立・成人 B141.2 / /11)
  『みるということ‐暗闇の中の対話』    ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 小学館 (市立・成人 141.2/ /16)

 1988年にドイツで生まれた真っ暗闇のソーシャル・エンターテインメント施設 “ダイアログ・イン・ザ・ダーク” は、完全に光が遮断された空間の中へ入り、暗闇のエキスパートである視覚障害者のアテンドスタッフの サポートのもと、グループになって中を探索し、さまざまなことが体験できる施設です。この空間の中では、視覚障害者と晴眼者の立場が完全に逆転します。同じ施設が、東京にもあります。

 『まっくらな中での対話』の著者・茂木健一郎氏は、その著書の中で、1999年に日本ではじめて開催されたダイアログ・イン・ザ・ダークに参加したときの自身の体験を語っています。脳科学者である茂木氏の言葉は、未体験の私の心に強い好奇心を抱かせる興味深いものでした。

 『みるということ』では、親子や友人同士で実際にダイアログ・イン・ザ・ダークに参加した人たちの体験を知ることができます。体験する前と後では、それぞれの内面や関係性に少なからず何かしらの変化が訪れるようです。そして、その変化が好ましいものであるということにも、私はさらなる興味を掻き立てられました。

 目が見える人は、情報の80%を視覚から得ているといわれています。その情報源が閉ざされた空間の中、音に耳をすませて、ひとつひとつの触感を手や足で確かめ、匂いを嗅ぐ。暗闇の中では、容姿や肩書き、年齢などはすべて関係なくなります。ただの自分になって、自分の内側を感じる時間を持つことは、情報過多の今の時代にはもしかしたらとても必要なことなのかも知れません。

 ダイアログ・イン・ザ・ダーク。ずいぶんと前から機会を狙っていますが、まだ未体験。いつか自分が体験した後に、この体験談を改めて読んでみたいと思っています。


 

古から伝わる謎解きに挑戦

 『千年クイズ』 清水文子/著 リットーミュージック (市立・成人 807.9/ /14)


 今、私たちは、本やテレビ番組などさまざまな場面で、たくさんのクイズに触れることができます。さらに、 この『千年クイズ』を読めば、今とは一味違った昔のクイズにも挑戦できるのです。

 この本には、平安時代から昭和まで、古い時代のクイズが一問一答形式で紹介されています。クイズは多種多様で、絵を見て考える「絵解き謎」、文字を読んで考える「文字変換謎」、数字を計算して考える「数字謎」などがあります。その中から、自分のお気に入りの謎が見つかるかもしれません。

 昔の謎解きは難しいかも、と思った時でも安心。各クイズにはヒントがついています。クイズは、当時の時代背景や常識が元になっているので、謎解きをしながら、楽しく歴史を知ることもできます。

 私は、昔はこんなクイズがあったのかと驚き、頭をひねり、次のクイズは何かとワクワクし、つい時間を忘れて謎解きをしました。楽しみ方は人それぞれ。皆さんも古の様々な「謎」にぜひ、挑戦してみてください。

スケオタの世界

 『スケオタデイズ』 (市立・成人784.6/ /15) グレゴリ青山/著  KADOKAWA 
 『スケオタデイズ 飛び出せ!海外遠征編』 (市立・成人784.6/ /16) グレゴリ青山/著  KADOKAWA  

 スケオタとは何か?それはフィギュアスケートオタクの略。今回紹介するのは、スケオタの世界に足を踏み入れることになった漫画家・イラストレーターのグレゴリ青山さんの著書。スケートとの出会いから次第に夢中になっていく様子、観戦した数々の試合で起こるドラマやちょっとしたネタまで、面白いと同時に興味深いエピソードが満載です。また海外遠征編では、日本人選手だけでなく、海外選手も多く登場。選手に対する深い愛情が伝わってくるのも魅力の一つです。

 10数年ほど前、国際試合とアイスショーを生で数回観戦したことがあります。そのとき、テレビで見るのとは違った迫力や会場の雰囲気に圧倒されたことを思い出しました。フィギュアスケートブームの今は、もっとすごいのでしょうね。来年2月には、平昌オリンピックが開催されます。4年に一度の大舞台で、出場する選手たちがどのような演技を行うのか、観戦できるのを楽しみに待ちたいと思います。

 他にもフィギュアスケートに関する本は、多数あります。ぜひ、「784.6」の棚をご覧ください。

田村泰次郎の文学世界

 『肉体の門』 田村泰次郎/著 角川出版 (913.6/タム/郷土)

 四日市の郷土作家である「田村泰次郎」と聞いて連想することは、「肉体文学」という言葉や、風俗小説作家といった肩書きでしょうか。
 代表作である「肉体の門」は、戦後の日本の街娼を主人公としたものです。何度も映像化されたそれのパッケージやキャッチコピー、そしてその衝撃的なタイトル自体がどこか淫靡さや頽廃を感じられるもので、彼の作品には、そのようなイメージがついているように思われます。私が情報として知っていた田村泰次郎は、そのようなものでした。

 実際読んでみると、映像であったような淫靡さや、現代における風俗小説といった類とは、異なるように思えました。今回読んだ文庫には、「肉体の門」、「肉体の悪魔」、「刺青」、「春婦伝」の4作が集録されており、いずれも「肉体」を用いた表現をしているものの(それが肉体文学なのでしょうが)、戦中戦後の日本を生々しく描いた戦争文学であり、前述で述べたようなものでは決してないように感じられます。頽廃的な生々しさというよりは、内面のある種の健康さを表現しているようにも考えられました。

 先行するイメージにとらわれず、一度、田村泰次郎の作品に触れてみるのはいかがでしょうか。自分なりの解釈や感想が生まれると思いますよ。


 また、田村泰次郎に関する研究の本も出版されています。

・『丹羽文雄と田村泰次郎』(910.26/タム/郷土)
・『田村泰次郎の戦争文学』(910.26/タム/郷土)

 一読後、文学者の見解、田村泰次郎の為人を含め、作家について知るのもおもしろいのではないでしょうか。

 ここで紹介した本は、いずれも本館の2階郷土作家コーナーで借りられますので、是非、読んでみて下さい。