図書館スタッフおすすめ本
“可哀そう”って決めつけないで
この作品は児童養護施設を舞台に、主人公の新任職員が施設の子供や職員と関わりながら成長していく様子を描いた物語です。児童養護施設が持つイメージから皆さんは、たぶん「可哀そうで不幸な話、重たいストーリー」ではと思われることと思います。実際、私も”可哀そうな物語”でつらい気持ちになって、最後まで読み終われるかなと不安になりながら読み始めたのですが、杞憂に終わりました。
著者の描き方が上手く、重くなりそうなテーマを軽やかに明るくまとめてあるため、あっという間に読み終わることが出来ました。普段、あまりよく知られていない「児童養護施設」の現状とかかえる問題を知ることが出来て、私たち大人が本当に子供たちにすべきことは何かを考えさせられました。
そして、物語を読み終えた後の子供の手紙を読んでください。この作品の本当の存在の意義がわかり、感動が一層深まることと思います。
人を愛するということについて
原題『Call Me By Your Name』を高岡香が訳した本書は、2018年4月に公開された映画「君の名前で僕を呼んで」の原作です。
17歳の少年のひと夏のほろ苦く切ない恋を描いた作品で、主人公エリオの視点で書かれています。読者は、最後までエリオに感情移入しながら読み進めるのですが、ハッピーエンドを好んで他作品に触れてきた私にとっては、冒頭から切ないものでした。エリオの葛藤、不安、喜び…などの感情があふれるたびに、こちらも一喜一憂し、涙なしでは読めない部分もありました。
このストーリーは、誰かに恋をし、愛する心には、性別も年齢も関係ないということをテーマにしているのだと思います。また、哲学的な部分があり、少し難しいですが、詩的でとてもすてきな作品だと思います。舞台は夏のイタリアです。読んだ後にはイタリアに行きたくなると思います。ぜひ読んでみてください。
“赤いひがんばな”と言えば?
“赤いひがんばな”で思いつく物語といえば、「ごんぎつね」と答える人は多いでしょう。昭和・平成…と時代は変われども、教科書の定番はやっぱり 新美南吉。遠くに光るお城の屋根瓦、どこまでも青い空。兵十のおっかさんの白い葬列が,赤いひがんばなの中を通るシーンでは,鮮やかな色たちが目に浮かびます。
若くして星になった南吉は、「ごんぎつね」のほかにもさまざまな作品を生みました。その中でも、「牛をつないだ椿の木」や「おじいさんのランプ」は、地味な作品ではありますが、今の時代でも何か 通じるものがあるように思います。
椿の木かげに井戸の清水は今もこんこんと湧き、道に疲れた人々はのどをうるおし、また 道を進んで行くのであります。~「わしはもう,思い残すことはないがや。こんな小さな仕事だが,人のためになることを残すことができたからのォ」…… ロシアとのいくさに行く,「牛をつないだ椿の木」の海蔵さんの最後のことばです。
「日本がすすんで、自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつをすてるのだ。いつまでも きたなく古い商売にかじりついていたり、自分の商売が はやっていた昔の方がよかったと言ったり、世の中のすすんだことをうらんだり、そんな意気地のねぇことは決してしないということだ」…… 峠の半田池にランプをつるし、石を投げて次々に割る「おじいさんのランプ」の巳之助じいさんのつぶやき。
二人のことばは、時を越えて生きる私たちの心に今も強く響いてきます。
カンパニー
『カンパニー』 伊吹 有喜/著 新潮社 (市立・成人 913.6/イフ/17)
主人公の青柳誠一は、40代後半。製薬会社の総務に25年間務めてきた。与えられた仕事をソツなくこなすだけの青柳は、取り換えのきく人材と評価されリストラ候補に。そして、社長とは縁が深いバレエ団に出向を命じられてしまう。会社に戻るために青柳に残された道は、社名変更キャンペーンイベントの最後を飾るバレエ公演を成功させることなのだが、チケットが売れなかったり、公演の主役であるダンサーが突然居なくなったりと開幕すら危うい状況に。果たして公演は無事開幕するのか。
会社やバレエ団の思惑、ダンサーが現役であり続ける理由など、表舞台では想像しにくい裏側が描かれている本書。まるで裏側を覗き見ているようで、ワクワクしながら読みました。表舞台の華やかさとは裏腹に、喜びや苦悩があるのだと知りました。
また、登場人物たちが自分と向き合っていく姿が魅力的。主人公青柳も違う環境に生きる人たちと触れ合うことで、自分の居場所と必要性について疑問を膨らませていく。青柳が出した答えも考えさせられました。人物の動きや心情が事細かくていねいに描かれているので想像しやすく、バレエを知らない私でも、ついつい小説の世界に引き込まれてしまうような1冊です。
手塚治虫からの伝言(メッセージ)
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)命』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)人間の未来』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)平和への祈り』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)友情』
『手塚治虫からの伝言(メッセージ)ロボットと暮らす世界』
いずれも、手塚治虫/著 童心社 (市立・成人 726.1/テス/18)
こんにちは。
マンガの神様・手塚治虫が、未来の人たちに遺して、伝えていきたかった、力強くて、おもしろくて、悲しくて、心にのこるもの…を感じることができる本をご紹介します。
手塚治虫は、人類にとっての普遍的なテーマを数多くの作品に描き続けました。私たちは、「ジャングル大帝」、「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」などの作品をわくわくして見て育ちましたが、手塚治虫のマンガにでてくる未来は、明るいものばかりではありません。むしろ、未来の戦争や、人類の終末を描いたもののほうが多いくらいです。
それは、手塚治虫が未来ある人たちに、「道をまちがえてしまうと、未来はこんな暗いものになるよ。気をつけなさい。」というメッセージを伝えようとしていたから。過去の人間の愚かなまちがいを繰り返さないでいいようにという思いからでした。
アトムが描かれてから、半世紀以上が経ちましたが、そのテーマは今も私たちに問いかけてきます。目を見張るほど進歩し続けていくテクノロジーや、命の大切さ、、、どうぞ、それらを感じてください。