図書館スタッフおすすめ本

昭和の宰相・田中角栄を偲んで


 
2018年は、田中角栄元首相の生誕100年・没後25年の節目の年にあたる。そこで、田中角栄にまつわる本の中から、選りすぐりの3冊を紹介したいと思う。

 『父と私 』  田中眞紀子/著 日刊工業新聞社  (市立・成人/289/タナ/17)

 娘から見た、政治家・田中角榮とは?駆け出しの議員時代から死に至るまでの47年間に渡って、深い絆で結ばれてきた父と娘。脳梗塞で倒れた父に代わっての衆議院への立候補、外相や文部科学相などを歴任した議員時代…。娘・田中眞紀子が、歴史的証言者として、客観的かつ冷静に、今初めて明らかにする、父・田中角栄の実像!
 娘の結婚式でのスピーチ、中国要人との信頼関係、ロッキード事件への率直な疑問、父が病に倒れた後の姑息な政治劇…。 終生、人を愛し、家族を愛し、国を愛して飽くことのなかった田中角栄の知性と魅力を、ユーモアを交えて明かす。

  『天才』 石原慎太郎/著 幻冬舎  (市立・成人/913.6/イシ/16)

 日本列島改造論を引っ提げて、総理大臣に就任。数字に強い、駆け引きが上手い、義理人情を欠かさない。それが高等小学校出の男がのし上がる武器だった!
 庶民宰相・今太閤と国民に持てはやされて、 比類なき決断力と実行力で、激動の戦後日本の政治を牽引したが、金権体質を糾弾され、総理を辞任。その後も、長らく闇将軍・キングメーカーとして政界に君臨した田中角栄とは、いかなる人物であったか?
 政治家として田中角栄と相まみえた著者が、浪花節と映画をこよなく愛する、家族思いの人情家だった田中角栄の汗と涙に彩られた生涯を、モノローグで描く。
 アメリカ傘下のメジャーに依存しない独自の資源外交を展開した田中角栄と、それを苦々しく思うアメリカとの壮絶な駆け引きの裏には何があったのか?日本の司法を歪めた欺瞞と虚構、それに荷担した当時の三木総理や司法関係者たち…。国会議員の中で唯一の外国人記者クラブのメンバーだった著者が、ロッキード事件の真相にも迫る! 

 『田中角栄100の言葉 日本人に贈る人生と仕事の心得』
 別冊宝島編集部/編 宝島社 (市立・成人/289/タナ/16)

 「人生における勝機は一度か二度しかない」「出来損ないの人間そのままを愛せ」「おカネは、返ってこなくてもよいという気持ちで貸す」「やれ!責任はワシが取る!」…。
 読むだけで元気が出る!「新しい自分」に変わる!
 人の心をつかみ、人を動かした田中角栄の言葉は、時代を超えて多くの人間を魅了し続けた。ひとに「やる気」を引き出す天才・田中角栄の心に残る言葉を紹介。

子どもの頃に見た映画から

 『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』 森鴎外/著 角川書店 (市立・成人 B913.6/モリ/12)
 
 「山椒大夫」・・・上記短編集より 
 小学生の時にふと手にした本。「山椒大夫」という言葉の不気味さから、ストーリーは、きっと恐ろしいものなのだろうと感じました。実際の物語は、「安寿と厨子王(あんじゅとずしおう)」といえばご存じの方も多いのではないでしょうか。子ども向けにアレンジした同名のアニメ映画もありました。

 平安時代。物語は、安寿と厨子王が、母親とともに、九州へ赴任した父親のもとへ向かうところから始まる。その途中、子どもたちは人買いにさらわれ、母親と引き離されてしまう。幼い姉弟が売られた先の主として君臨する長者が「山椒大夫」であった。
 一家離散の末、かわいそうな姉弟は奴隷として耐え忍んで生活するが、絶望の中、悲劇が訪れる。映画では、安寿が鳥となり飛び立った。
 一方、山椒大夫のもとから脱出に成功した厨子王は、あるきっかけから藤原氏の庇護を受ける。成人した厨子王は国司となり、山椒大夫に対して人買いの禁止・奴隷の解放を指示する。その後、感動のクライマックスを迎える。

 森鴎外は、伝説の小説化にあたり、伝説にある多くの残酷な部分を避け執筆しました。
 30年ぶりに手にとって読み返してみれば、物語の途中の「絵」を見せる描写のほか、安寿の人物像が「最後の一句」の主人公「いち」との共通点を感じさせる(平安時代と江戸時代、武家と商家の違いはありますが)など、多くの新しい発見がありました。
 このほか、賛否両論ありましょうが、古来、日本社会で尊ばれている「日本の美」とされているものがテーマとなっているように思われます。 

  この本には、「高瀬舟」、「阿部一族」なども収められており、どなたでも短編の純文学を楽しむことができる一冊となっています。

博物館、ぐるぐるしてみませんか?

 『ぐるぐる♡博物館』  三浦 しをん/著 実業之日本社 (市立・成人 069.0/ /17)

 皆さんは“博物館”と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?小難しい説明のついた展示品が並んでいて、部屋の隅に学芸員さんがいて…。なんとなく、敷居が高いと感じている人もいるかもしれません。
 そんなあなたに読んでいただきたいのが、この『ぐるぐる博物館』。作家の三浦しをんさんが全国各地の博物館を実際に訪れ、展示品を見て、学芸員さんに取材をして書いたルポエッセイ集です。

 東京都の国立科学博物館や京都府の龍谷ミュージアムといった、比較的有名な博物館に関するエッセイも収録されているのですが、福井県のめがねミュージアムや大阪府のボタンの博物館といった、少し変わった博物館も掲載されています。

 三浦しをんさんと、個性豊かな学芸員さんたちのユーモアあふれるやり取りも必見。

 次の休日どこに行こう?と悩んでいるあなた。お出かけ先の候補の一つに、博物館はいかがですか?

『市川崑のタイポグラフィ』

『市川崑のタイポグラフィ 「犬神家の一族」の明朝体研究』 小谷 充/著 水曜社 (市立・成人 727.8/ /10)

 市川崑監督の「犬神家の一族」と聞くと、頭の中をあのメロディが流れ、印象に残る場面の数々が思い浮かぶとともに、画面に映し出される明朝体文字のことを思い起こす人も多いのではないでしょうか。

 この本は書名にあるとおり、市川崑作品における文字表現について、「犬神家の一族」を中心に読み解いていこうというものです。

 専門的な内容に身構えてしまいそうになるかもしれませんが、大丈夫。序章で明朝体の歴史が解説されているほか、各所説明も丁寧に書き進められているので、映画あるいは文字に少しの興味があれば、興味津々読み進められることと思います。
 映画や文字を楽しむ視点がまた一つ増えるかもしれません。

 余談ですがこの本は、印字された「しんにょう」に時折見慣れぬ点を見ることがあり(例:逢、迄、遡)それが心に引っ掛かるという方にもおススメです。 →P.57の前後
 なお、この件では他に『異体字の世界』 (小池和夫/著  河出書房新社 市立・書庫B811.2/ /07)もご案内します。

やり残したことがあるから…

    『青空のむこう』   アレックス・シアラー/著、金原瑞人/訳 求竜堂 (市立・書庫/933/シア/02)

 青い空と白い雲。その上を走る少年。とても明るい印象を受ける表紙です。
この本と出会ったのは12歳の時、小学校の卒業式の日でした。担任の先生に頂いて、家に帰るなり夢中になって読んだように思います。

 物語は、主人公の少年ハリーの一人称で語られます。ハリーはある日突然事故に遭い死んでしまいます。人は死んだらどうなるのだろう、誰もが一度は考える問題かもしれません。この物語では、ハリーが体験する「死者の国」と、死者の視点から見た「生者の国」が、ユーモラスな登場人物とハリーの軽妙な語り口で展開します。

 ハリーは死者の国で出会ったアーサーに、大抵の人は手続きを終えたら「彼方の青い世界」へ行くと教えられます。しかし、やり残したことがある人は、「彼方の青い世界」へは行けません。ハリーの心には、最後に姉に言った言葉が引っかかっていました。「ぼくが死んだら、きっと後悔するんだから。」 学校、教室、そして家族のいる家。やり残したことを片づけるために、姉に本当の思いを伝えるために、ハリーは生者の国へ飛び降ります。
 はたしてハリーは、やり残したことを片づけて、「彼方の青い世界」へ行けるのでしょうか。

 今でも節目の時などに読み返すたび、この本は、後悔しない生き方をしたいと思い立たせてくれます。