図書館スタッフおすすめ本

『市川崑のタイポグラフィ』

『市川崑のタイポグラフィ 「犬神家の一族」の明朝体研究』 小谷 充/著 水曜社 (市立・成人 727.8/ /10)

 市川崑監督の「犬神家の一族」と聞くと、頭の中をあのメロディが流れ、印象に残る場面の数々が思い浮かぶとともに、画面に映し出される明朝体文字のことを思い起こす人も多いのではないでしょうか。

 この本は書名にあるとおり、市川崑作品における文字表現について、「犬神家の一族」を中心に読み解いていこうというものです。

 専門的な内容に身構えてしまいそうになるかもしれませんが、大丈夫。序章で明朝体の歴史が解説されているほか、各所説明も丁寧に書き進められているので、映画あるいは文字に少しの興味があれば、興味津々読み進められることと思います。
 映画や文字を楽しむ視点がまた一つ増えるかもしれません。

 余談ですがこの本は、印字された「しんにょう」に時折見慣れぬ点を見ることがあり(例:逢、迄、遡)それが心に引っ掛かるという方にもおススメです。 →P.57の前後
 なお、この件では他に『異体字の世界』 (小池和夫/著  河出書房新社 市立・書庫B811.2/ /07)もご案内します。

やり残したことがあるから…

    『青空のむこう』   アレックス・シアラー/著、金原瑞人/訳 求竜堂 (市立・書庫/933/シア/02)

 青い空と白い雲。その上を走る少年。とても明るい印象を受ける表紙です。
この本と出会ったのは12歳の時、小学校の卒業式の日でした。担任の先生に頂いて、家に帰るなり夢中になって読んだように思います。

 物語は、主人公の少年ハリーの一人称で語られます。ハリーはある日突然事故に遭い死んでしまいます。人は死んだらどうなるのだろう、誰もが一度は考える問題かもしれません。この物語では、ハリーが体験する「死者の国」と、死者の視点から見た「生者の国」が、ユーモラスな登場人物とハリーの軽妙な語り口で展開します。

 ハリーは死者の国で出会ったアーサーに、大抵の人は手続きを終えたら「彼方の青い世界」へ行くと教えられます。しかし、やり残したことがある人は、「彼方の青い世界」へは行けません。ハリーの心には、最後に姉に言った言葉が引っかかっていました。「ぼくが死んだら、きっと後悔するんだから。」 学校、教室、そして家族のいる家。やり残したことを片づけるために、姉に本当の思いを伝えるために、ハリーは生者の国へ飛び降ります。
 はたしてハリーは、やり残したことを片づけて、「彼方の青い世界」へ行けるのでしょうか。

 今でも節目の時などに読み返すたび、この本は、後悔しない生き方をしたいと思い立たせてくれます。

一日1ページ読んでみる。

『365日。』  渡辺 有子/著 主婦と生活社 (市立・成人 596/ /14)

 料理家・渡辺有子さんのこの本は、1日1日から12月31日までの365日が、写真とエッセイでつづられています。その日感じたことを短い文章でそっと語り、写真に写し出されるのは、その日作った料理だったり、ふと見上げた空の様子だったり、素敵な友人たちだったり。
本からは、旬の食べ物や、季節の花、毎日を大切に暮らしている様子がうかがえて、とてもうらやましくなります。

 ひどく落ち込んで辛かった時、この本を枕元に置き、日めくりカレンダーのように毎朝開いていたことがあります。どんなに辛くても一日一日を大切に頑張ろうと勇気づけられ、毎日ページをめくるのが楽しみになっていきました。

 本は、図書館の「料理」の棚にありますが、レシピはほんの少しです。写真をながめるのもよし。詩のような文章を味わうのもよし。
一度に読むのもいいですが、私のように一日1ページと決めて本を開くのもおもしろいですよ。図書館で借りた本では、365日毎日開くことはできませんが、貸出期間内だけでもぜひ試してみてください。

 この他にも、毎日お菓子を紹介する『一日一菓』 木村宗慎/著 新潮社(市立・成人 791.7/ /14)や、
身近な草木を紹介する『花ごよみ365日』 雨宮ゆか/著 誠文堂(市立・成人 793/ /15)など、
一日1ページの本は色々あります。

将棋の子とは?

 『将棋の子』 大崎 善生/著 講談社 (市立・書庫 796/ /01)

 
最近、藤井聡太四段らの活躍もあり、将棋ブームがきているようですね。ルールがわからない私でも読める将棋本がないか探したところ、見つけましたこの一冊、『将棋の子』 。

 将棋のルールの本ではありません。この本は、プロを目指した元奨励会員のノンフィクションです。将棋雑誌の編集部に務めていた著者のもとに、ある元奨励会員の連絡先変更のメモが届いたところから、この物語は始まります。住所の変更先は、札幌のとある将棋センター。彼がその後どうしているのか、気になった作者は、札幌へ向かいます。

 小学生だった頃、著者は、たまたま通りかかった将棋会館と書かれた看板と“見学自由”の言葉につられて、将棋会館に入ります。将棋が楽しくて、大人たちの中に混じって将棋をさしていると、老人と有段者しか入れない和室に、わき目もふらず上り込む小学生の姿を見つけます。それが、著者と成田の出会いでした。

 その後、努力だけではどうにもならない事を悟った著者は、プロになるのではなく、将棋連盟に就職。そんな中、小さいころに強烈なインパクトを残した成田に久々に再開します。プロを目指した成田でしたが、天才と呼ばれた彼でさえ、プロになれないという現実。そして、その後の壮絶な悲しい人生。プロになれない奨励会員は、その後どうしているのか。成田だけでなく、他の元奨励会員についても記載されています。

 読んでいると悲しくなってしまいますが、最後にはあっと驚かされる話となっています。日本将棋連盟に所属し、将棋雑誌の編集長も務めるなど、将棋の世界を身近に見てきた著者だからこその作品となっています。

 こちらの本は書庫に所蔵されている本ですので、読んでみたいと思われた方はカウンターまでお尋ねください。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク~暗闇の中の対話~

 『まっくらな中での対話』
     
         茂木健一郎with ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 講談社 (市立・成人 B141.2 / /11)
  『みるということ‐暗闇の中の対話』    ダイアログ・イン・ザ・ダーク/著 小学館 (市立・成人 141.2/ /16)

 1988年にドイツで生まれた真っ暗闇のソーシャル・エンターテインメント施設 “ダイアログ・イン・ザ・ダーク” は、完全に光が遮断された空間の中へ入り、暗闇のエキスパートである視覚障害者のアテンドスタッフの サポートのもと、グループになって中を探索し、さまざまなことが体験できる施設です。この空間の中では、視覚障害者と晴眼者の立場が完全に逆転します。同じ施設が、東京にもあります。

 『まっくらな中での対話』の著者・茂木健一郎氏は、その著書の中で、1999年に日本ではじめて開催されたダイアログ・イン・ザ・ダークに参加したときの自身の体験を語っています。脳科学者である茂木氏の言葉は、未体験の私の心に強い好奇心を抱かせる興味深いものでした。

 『みるということ』では、親子や友人同士で実際にダイアログ・イン・ザ・ダークに参加した人たちの体験を知ることができます。体験する前と後では、それぞれの内面や関係性に少なからず何かしらの変化が訪れるようです。そして、その変化が好ましいものであるということにも、私はさらなる興味を掻き立てられました。

 目が見える人は、情報の80%を視覚から得ているといわれています。その情報源が閉ざされた空間の中、音に耳をすませて、ひとつひとつの触感を手や足で確かめ、匂いを嗅ぐ。暗闇の中では、容姿や肩書き、年齢などはすべて関係なくなります。ただの自分になって、自分の内側を感じる時間を持つことは、情報過多の今の時代にはもしかしたらとても必要なことなのかも知れません。

 ダイアログ・イン・ザ・ダーク。ずいぶんと前から機会を狙っていますが、まだ未体験。いつか自分が体験した後に、この体験談を改めて読んでみたいと思っています。